2008年6月 2日

ウェブ時代 5つの定理 / 梅田望夫

ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!
梅田望夫

文藝春秋 2008-02-28
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執筆サバティカルに入っていらっしゃる梅田望夫さんの貴重な新著。2/27発売で、読んだのは3月に入ってから。あら、もう6月だわ。

CNET JAPAN「英語で読むITトレンド」の頃から梅田さんのネット上の文章を読んでいるので、出版された著作には既視感を覚えることが多かった。この本でも、随所に見覚えのある「人」や「言葉」が。そうそう、ゴードンさん。アンディ・グローブ。オライリー。もちろんジョブズ。エリック・シュミット。リーナス・トーバルズ。そして、ポール・グラハム!!《ハッカーと画家》はプログラムの素人にはわかりにくい部分も多々あったけど、本当にぎゅーっとハッカー(今で言うとギーク?)のスピリットが濃縮されていて、とんでもなく面白い本だった。梅田さんは私の世界を、どんどんと広げてくれた人なんだなあと思う。人生経験が増えたからなのか多少は勉強の効果が出たのか、今あらためてこれらの「定理」を読むと、瑞々しく穏やかな喜びを感じる。

しかしIT業界にも起業にもいわゆる普通の会社にも縁のない私にとって、梅田さんのサバイバル法は机上の空論ではないのか。否。仕事の面で、ひとつの指針になっている。小さな組織ながら私の上司は大変なやり手で、はたから見ると力技でものごとを押し切っているように見えて、着実な成長を実現している。細部を見ているし辛抱強いし、押すべきところではものすごい馬力で押し切る。設備投資が大きいので、部下としては高レベルのハードを使えるという役得を享受しているが、ついて行くのは大変。「君たちは遅すぎる」「成長を続けて行くには、そんなことできるわけない、というくらい大胆なアイデアがないとだめだ」といつもお尻を叩かれ、でもそれが無茶な要求ではないことを、私は梅田さんから学んだ。根がネガティブなので、オプティミストであることの強さ、みたいなことも教えられたし(これは本書に限らないが)。

かなり以前梅田さんに、システム手帳にサインを頂いたことがある。職場内限定で使っているのでこの手帳はさして傷むことなく今でも現役で、毎日のように「梅田望夫」というマジックの文字を見ながら、あーでもないこーでもないと気にかかるあれこれを書き留めている。ひとつの宝物ではあるが、一番貴重なのはやはり梅田さんの文章だ。出版物というのは鮮度は低いけれど、手元において繰り返し眺めるにはとても良い形態。特にこの本は、各々を「定理」としてまとめているのでバラ読みがしやすくて便利。毎度ただ感心して読むのではなくて、こうして金言を集めてこられた梅田さんの勉強法を、鑑にしたいなあと思う。

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2008年2月24日

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 / 塩野 七生

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
塩野 七生

新潮社 1982-09
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大変恥ずかしいことに、私は塩野七生さんを読んでいない。「ローマ人の物語」くらいは、と思いつつ全15巻、その量に恐れをなしてしまって手を付けていない。全部読まなくても、面白そうなところだけ抜き出せばいいんだよとアドバイス頂いたこともあるが、怠け者であるのと、根が几帳面なのでそういうことができないのだ。

昭和45年刊行のこの本を今さら買ったのは、惣領冬実さんの「チェーザレ—破壊の創造者」の影響だ。コミックを買ったのは10数年ぶり?(自分でもわからないくらい久しぶり)。惣領さんはまだマンガファンだった頃好感を持っていた作家さんだが、美しい筆致を崩さず現役で活躍されていることに驚いた。彼女の描くチェーザレは自由闊達でクールで美しい青年。既刊ではまだお父さんが法王になっていないが、すでにマキャベリもダ・ヴィンチも登場している...。

と、本書になかなか話が進まないのにはわけがある。歴史物語というのは評が難しい。こっちに知識があれば「いや、その解釈は...」とか渡り合うことができるのかもしれないが、テキは史料を後ろ盾に慎重に話を進めてくる。史実のない時期は空白として言及しないし。素人としては「成る程成る程」と塩野さんのお話をうのみにするしかない。

「彼は、自らを語ることの極端に少ない男であった。」
「しかし、チェーザレの眼は、人々が狂喜してまとう緋の衣のはるか向うを見ていた。」
「まだ一傭兵隊長として働かねばならない自分を、チェーザレは、怒りを持って耐えいてた。」
「自分の時が来るのを待っていたチェーザレは、その時が来た今も、それが成熟するのを待つことを知っていた。」

時折挿入されるチェーザレの内面。塩野さんの押さえた筆致は、読む者に全く違和感を感じさせない。そして最後の戦場の場面...。

「その時である。忘れていたあの激しい頭痛が、再び彼を襲った。チェーザレは、鞍をにぎりしめて、気が遠くなりそうなその痛みを耐えようとした。敵味方双方のあげる叫びが、海鳴りのように、遠く近く馬上の彼を包んだ。それを聞きながら、彼は剣を抜き放った。次の一瞬、彼は馬腹を蹴っていた。」
「倒れたチェーザレの右手は、まだ剣をにぎりしめ、左手は、すでに動かない馬の手綱をしっかりと押さえていた。敵兵の一人が、彼の胄をはいだ。その時、右眼に刺さっていた矢が、軽い音をたてて折れた。胄の下から、蒼白な顔があらわれた。ひたいには、苦痛の深いしわがきざまれていた。右の眼は、血の中で形がなかった。左の眼だけが大きく見開かれていたが、その灰色の眼の光は、だんだんと小さくなり、やがてそれも消えた。」

うわー壮絶。ちょっと待って。史実にこれだけ詳しい記述があるわけない(頭痛とか)。これは塩野さんの創作?もちろんyes。そうなのだ、この物語はチェーザレ・ボルジアという男に魅せられた塩野さんが、歴史の中からすくい上げて見せた独自の英雄の姿。最期のシーンは、彼への鎮魂歌だ。ここに来てやっと自分がドキュメンタリーを読んでいたのではないことい気づいた私は間抜けかもしれない。でもそのくらい、迫真の歴史物語だった。

チェーザレ 1―破壊の創造者 (1) (KCデラックス)
惣領 冬実
4063722015


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2008年1月27日

ナノフューチャー―21世紀の産業革命 / J.ストーズ・ホール

ナノフューチャー―21世紀の産業革命ナノフューチャー―21世紀の産業革命
J.ストーズ・ホール 斉藤 隆央

紀伊國屋書店 2007-03
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書店の店頭で見かけて「これは面白そう!」と思って買ったのだが、本当に面白かった。以前読んだ「基礎からわかるナノテクノロジー」(感想)よりずっと濃い内容で、ナノテクが作り出す未来をダイナミックにシミュレートしてくれる。Amazonのレビューを見るとちょっと論調が偏っている、みたいな意見もありなるほどと思わないでもなかったが、ホールの描く仮想未来にはかなり現実性を感じた。以前読んだ「基礎からわかるナノテクノロジー」で炭素を例に取りナノテク素材の有用性が説かれていて、

(以下続く)

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2007年11月18日

ウェブ時代をゆく / 梅田 望夫

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)
梅田 望夫

筑摩書房 2007-11-06
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梅田望夫さんの書き下ろし新刊。副題に「いかに働き、いかに学ぶか」とあるように、梅田さんが自身の人生において精進して来られたこのテーマについて、1年かけて渾身の力で執筆されたとのこと。ちょうど日帰りで名古屋に行った日に読み始めたが、高密度な文章なので帰りの新幹線が横浜に着くくらいでやっと読み終わった。面白かった。読後の充足感があった。あとがきに「『ウェブ進化論』と対になった「その時代に生まれる新しい生き方の可能性」をテーマとした本」とあったが、『ウェブ進化論』より重厚で普遍的な内容であり、より長く広く読まれて欲しい本だ。

内容としてはウェブによる世界の大きな変化をわかり易く辛抱強く説き、特に人生前半戦の人たちがどうすれば変化の波に乗って成功できるのか、真摯なアドバイスとして提示している。自分の起業時代の個人的な状況をかなり具体的に書いていらして、「うわー曝け出しているなあ」と思った。CNET Japanのブログの頃は「個人臭」を出さない文章を心がけていらしたように記憶しているが、今回は梅田さんのことを知らない読者に対しても説得力を持たせたいと、意識的にそうされたのだろう。

この本でも貫かれているオプティミズムは、「強くあれ」というメッセージだと思う。好きなことをとことんやって生きていくというのは一見甘い考えのようだが、全身全霊かけないでやった仕事が成功するものだろうか。好きだからこそ身を呈す、そこにかけるエネルギーは膨大なはずで、意思の強い人間でなければ走り切ることはできない。私の場合特に好きではないことを仕事に選んだが、いつの間にかとても「好き」なことに変わっていた。エキスパートになれなかったのは(多分これからもなれない)はじめが間違っていたせいかもしれないが、それでも「好き」が原動力になって向上心を失わないでいられる。

私が梅田さんの大ファンなのは彼の読書量による。ブログではたまにしか披露されないが、自宅に大きな書庫を持ち膨大な書籍を読んでおられる。本書では自分の読書を「生きるために水を飲むような読書」と表現されていて、それが面白かった。私は小説は快楽のために読むものだと思っていたから。梅田さんは小説もたくさん読まれているのだ。

ウェブによる生活の変化というのは強く感じている。とにかく今は個人が膨大なデータを安価に保持できるようになっていて、パソコンは単なるウェブの窓口、入力&出力デバイスに過ぎない。無料のGmailその他のwebサービスと安価なレンタルサーバを利用することによって、何でも「あちら側」に置くクセがついた。繋がるのは携帯やiPod touchでも十分だし。リアル世界でも、先日はじめて携帯用のミニSDを購入してその小ささと安さにびっくり仰天したものだ。何ていうか実に豊かな世界になったなあと、嘆息した。

まとまらない感想になったが、更に蛇足。その1。Googleは世界の中心になりつつある。いつかテロ組織がGoogleのデータセンターを狙うのではないかと、とても心配。その2。梅田さんは美術にも造詣が深いと見ている。そのうちアートに関する文章を書いてくださるのではと、期待している。


【参考】
梅田氏のブログの「ウェブ時代をゆく」タグ
[ウェブ時代をゆく] - My Life Between Silicon Valley and Japan
11/14の丸善での講演会の抄録
筑摩書房 ウェブ時代をゆく メイキング・オブ・『ウェブ時代をゆく』
更に、↑の全内容
リアルの世界に生きる人は、ウェブ時代をどう生きたらいいのか--梅田望夫氏講演:前編:コラム - CNET Japan
「たいしたことない自分」だから、本を書いた--梅田望夫氏講演:後編:コラム - CNET Japan

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2007年10月 7日

生物と無生物のあいだ / 福岡 伸一

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
福岡 伸一

講談社 2007-05-18
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良書。本屋の新書の平積みコーナーを物色していて、見つけた。「積んである=売れている=面白い」だと思うが、平積みされる科学系の新書って結構少ない。希少価値+私的な好みでこの本はなんだか燦然と輝いていた。「生命とは何か?」というコピーはありきたりだけど、学者(=専門分野において嘘を言うことは許されない)が語るのであればとても興味深いテーマだ。ちなみに福岡氏は分子生物学者。

私は今、多摩川にほど近い場所に住んでいて、よく水辺を散策する。

プロローグ冒頭の文章だ。やわらかい。水の中にはさまざまな生物が息づいている。著者は大学入学当初の生物学の授業を通して「生命とは何か」という命題を抱いたと言う。DNAの二重ラセン構造を解明した20世紀生命科学は、「自己複製を行うシステムである」というひとつの答えを出したが、福岡氏は研究を通じて生命体が単なる生物機械ではないことを体感する。生命の本質には、「動的平衡」とでも言うべき不思議なダイナミズムが存在するのだと...。

この結論に至る前に、福岡氏が紐解く分子生物学の歴史は大変興味深い。野口英世の陥った落とし穴、DNAの二重ラセン構造解明によりノーベル賞を受賞したワトソン、クリックに重要な示唆を与えたunsung hero(縁の下の力持ち)オズワルド・エイブリー、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 法を開発してノーベル賞を受賞したキャリー・B・マリスの独特な研究スタイル。研究データの盗用と言うダークサイド。理論物理学者シュレディンガーの生命現象への考察。彼は猫だけじゃなくて生命全般に思いを馳せていたんですねー(違?)。

福岡氏自身のハーバード大学での研究テーマは膵臓の細胞膜のダイナミズム。これはシェーンハイマー→パラーディが明らかにしてきた細胞の動的平衡の機構を解明しようとするものだ。非常な労力をかけて得た結論はある意味衝撃的だったが、彼の考察は素晴らしい。エピローグにおいて少年時代の思い出を通して生命への介入の影響を語るくだりは詩的ですらあった。

福岡氏は文章が巧いのだな。印象的だったのは本文中程に出てくる、貝殻と小石の対比だ。貝殻の美しさは生物特有の「動的な秩序」によるのだと言う。思えばこのあたりから小難しい細胞の話にのめり込んでしまったのだった。科学系のノンフィクションというのは、基本的に著者の主観が入らないから、純粋な面白さがある。


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2007年9月30日

宇宙はどこまで明らかになったのか / 福江 純・粟野 由美


宇宙はどこまで明らかになったのか

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書評/サイエンス

カラフルなシェーマがふんだんに掲載されていて、新書とは思えない贅沢な作り。宇宙研究の最前線の書とあり、この分野の第一人者達が自分の研究の新鮮なトピックを紹介する。はじめに各執筆者のプロフィール(趣味とかも)がまとめてあり、何となく親しみを持って読むことができる。とは言え皆さん「宇宙航空研究開発機構」とか「国立天文台理論研究部」とか、一般人には縁のない組織の所属の方々。理解できるかな〜。

さて第一部「最新天文学入門」では、編者でもある福江・粟野氏が最新宇宙像を概説してくれる。宇宙の歴史、太陽系、系外惑星、星の種類、星の死—超新星爆発—とガンマ線バースト、ブラックホール、銀河、宇宙...。自然な流れで話が大きくなっていくのだけど、こうやって宇宙の大きさに改めて思いいたすと目眩がしてくる。理論と観測事実でビッグバンという宇宙論はほぼ確立されているという。(一部の)人間の叡智はすごい。

いよいよ最新トピックを並べた第二部では、Part.7「銀河学最前線:最果ての銀河への道」が印象的だった。すばる望遠鏡を使って赤方偏移の世界記録、つまり最も遠い銀河を発見するという画期的な観測を成し遂げた研究者の、ちょっとした苦労話っぽい語り口が面白い。純粋に事実として興味深かったのはPart.5の「降着円盤最前線:ブラックホールシャドウと新モデル」、Part.7「光速ジェット最前線:高エネルギージェット」、Part.8「宇宙最前線:宇宙マイクロ波背景放射と宇宙の進化」。理解しがたい単語が並んでいるが、硬派なロマン溢れる研究だ。一般相対性理論に基づいて理論化された宇宙モデルの、ごく初期の姿を宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎが教えてくれる。宇宙はダークマターやダークエネルギーに支配されている。この暗黒成分を明らかにするのが21世紀の宇宙論なのだとか。わからないなりに胸が高鳴る展開だ。

こういうカタい知識は、最近のやたら難解なハードSFを読むのに役立つと思う。

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2007年8月26日

仏教的生き方入門 / 長田 幸康


仏教的生き方入門

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書評/宗教・哲学

仏教本と言うより、副題の通り「チベット人に学ぶ「がんばらずに暮らす知恵」」を知る本。著者の長田幸康氏は早稲田大学理工学部在学中にはじめての海外旅行でインドに行き、ダライ・ラマ14世の最初の亡命先であるムスーリーで「チベット難民」に出会う。その後実際チベットを訪れチベット人の生活に惹かれ、卒業後何度も再訪し、いつしか夏はチベットで旅行ガイド、その他の季節はフリーライター&エディター(執筆はチベット関係中心?)として活動という生活に落ち着いていらっしゃるらしい。検索していたら「バックパッカーの神様」なんて呼び名にも出会った。

中国の占領と弾圧によりチベット人の文化やアイデンティティの破壊は今も進んでいる。中国語しか話せないチベット人が増えているらしい。中国はチベットから資源を搾取するだけでなく、核廃棄物の投棄場として使っているとか。そんな悲惨な状況の中で、長田氏の語るチベット人達は呑気で明るく鷹揚としている。プラス志向、セルフコントロール力(腹が立ってもキレない)、質素な食生活に満足している、執着しない、因果応報を信じる。皆敬虔な仏教徒である。チベット仏教の本質を表すキーワードは「慈悲の心」なのだとか。社会における僧侶の役割は高く、心に関するプロとしてカウンセラー的な働きもする。

時間にルーズであったり、チベット人のリズムが独特なのは標高の高い地であるため酸素が薄いせいもあるらしい。結構過酷な環境の中で穏やかにミニマムライフを送るチベット人の姿には、長田氏でなくとも魅せられると思う。そんなふうに素直に思える読みやすい本だった。

【追記】
長田幸康氏のサイト「I LOVE TIBET!」
 http://www.tibet.to/index.htm
.toはトンガドメインなんですねー、はじめて見た。


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鮨に生きる男たち / 早瀬 圭一


鮨に生きる男たち

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書評/ルポルタージュ

ノンフィクション作家早瀬圭一氏の、趣味(?)の本。2003年出版の 単行本『鮨を極める』を一部内容改め改題した文庫版。浪人中にはじめて風呂屋帰りに屋台の鮨屋に寄ってから50年、著者は鮨を愛し続け実に良く食べたらしい。いわゆるグルメ本のように鮨を語るのじゃなくて、名人と呼ばれる一流の鮨職人の人生に的を絞って取材し執筆している。私は滅多にお鮨は頂かないが、かえってふだん垣間みれない世界を覗く楽しみがあって、一気に読了した。

酢めしは人肌、あとは口にいれて旨ければ良いと早瀬氏は言う。紹介されるのは、人形町の喜寿司に始まって銀座の鮨 水谷、神保町鶴八、新橋鶴八、六本木の奈可久、銀座の鮨 青木とまず都心の高級店が続く。そして尾山台の鮨 徳助、上野毛のあら輝、経堂の鮨処 喜楽は住宅街の鮨屋。地方に飛んで我孫子のすし処 司、名古屋の鮨処 成田、同じく名古屋の寿し銀、先斗町の吉野鮨、金沢の千取寿し、焼津の松乃寿司。そして銀座にもどって鮨処おざわとすきやばし次郎。各章のタイトルはずばり店の主人のお名前になっていて、彼らの出自とか修行の場所とか結婚の経緯とか(鮨屋はおかみさんが重要)、人柄とか風貌とか、著者の目を通して知ることができる。たいがいの鮨職人の生活は結構ストイックだ。利ざやよりより良いネタを選んでしまう、自らが鮨好きたち。80歳を超えて今なお現役の小野次郎氏は、指の腹の柔らかさを保つため外出時は必ず手袋をするのだとか。

読んでいるうちに早瀬氏の鮨に対する愛情が体に乗り移ってしまった。今すごく、お鮨が食べたいモード。いきなり握りで、間髪おかず口に放り込んでいくのだ。

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2007年7月29日

数に強くなる / 畑村 洋太郎

数に強くなる数に強くなる
畑村 洋太郎

岩波書店 2007-02
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404 Blog Not Foundの書評を見て買った。畑村洋太郎氏は工学博士、すでに「失敗学のすすめ」 (講談社文庫)など著書多数の才人だ。未読だけど。数字が苦手なのでなんとか克服したいと思って時々数学関係の書籍を読むが(そして理解できなくて凹むが)、この本にはそんな迷える子羊な私をあたたかく励ましてくれるような、優しさとおおらかさがある。こういう包容力は「デキる」人が持つ独特なもの。

この本を読めば計算に強くなるかと言うと、そういうわけではないと思う。著者の「いつでもどこでも、愚直に、徹底的に訓練しつづけよ」という言葉に従って、「見たものを片っぱしから数にする」ことを習慣化できればかなり変われるのだろう。要はスキルの習得に近道はないということ。手持ち無沙汰になると携帯や読書に走ってしまう私には、至難。

畑村氏は原安三郎氏(Wikipedia)に可愛がられたそうで、本書内で時折経営者というものについて触れている。彼らは「数」に強いのだそうだ。数に強いから全体の傾向を把握できるのだと言う。私事だがウチのボスも非常に「数に強い」。出会った頃絶対に聞いた数字を繰り返さないので頭が良い人なのだなあと思っていたが、部下になって働いてみるとその先見の明に驚かされることがしばしば。ややドンブリなところとか変わり身が早いところは、畑村氏が語る自身像にそっくりだし(笑)。

自分を振り返ってみると、「自己評価は2割増の法則」が耳に痛かった。言われるまでなく時々自戒しているつもりだが、「こんなに頑張っているのに...」と思ってしまった時こそ要注意。

話がそれたが、全編に渡って人生の教訓となるようなtipsが溢れているし、文体は平易で淡々としたユーモアが楽しい、大変面白い本なのだった。

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人体 失敗の進化史 / 遠藤 秀紀

人体 失敗の進化史人体 失敗の進化史
遠藤 秀紀

光文社 2006-06-16
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進化の本なら面白いはず、と中も見ないで購入。序章でいきなりタヌキの遺体の解剖が始まったのでびっくりした(笑)。なんと赤坂御所で秋篠宮殿下が発見された狸、首をカラスに喰い散らかされていたが、宮内庁の職員がすぐに凍結保存しておいたのだとか。これが腐る前に歯を抜き、胃を開き、筋肉や肝臓の組織片から遺伝子を回収し...。うう。著者の遠藤秀紀氏は動物解剖学者なのだ(現在は京都大学霊長類研究所教授)。年間200-500体の遺体を調査し標本として残すと言う。動物の遺体から、ヒトの身体の歴史が見えてくるのだと。

遠藤氏の説明の仕方が面白い。まずニワトリ(フライドチキン)で肩甲骨の、サカナ(焼き魚)で心臓の、ヒトとの構造の違いを明らかにすることでヒトが選択した進化の道筋を説明する。種によって異なった身体のパーツの設計変更が繰り返されてきたことが、比較することでわかるのだそうだ。

進化=改造という考え方に慣れてきてから、「前代未聞の改造品」であるヒトの身体の特殊性の解説が始まる(第三章)。なるほど〜、目から鱗という感じだ。びっくりしたのは月経周期の話だ。「乳母要らず』(哺乳瓶)が周期を変えたと言うが、何とも信じ難い。信じ難いけど事実として目の前に突きつけられたのは、第四章「行き詰まった失敗作」における人の循環系の危うさだ。これを読んでからエコノミークラス症候群が怖くなって、日常でも水分を取る量を増やすようにしている。そして腰や肩の負担。そのトラブルは近代社会の弊害であり、近代社会を作り出したホモ・サピエンスは失敗したモンスターであると、著者は言い切る。かなり辛口だ。

人間は奇形・・・?うーん、真摯な研究者の言葉だけに、考えさせられる。

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2007年7月22日

新聞社―破綻したビジネスモデル / 河内 孝

新聞社―破綻したビジネスモデル新聞社―破綻したビジネスモデル
河内 孝

新潮社 2007-03
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404 Blog Not Foundの書評を読んで興味を持って購入。毎日新聞の元役員の、やや暴露本的な内容だ。まあ新聞社の経営状態がいかに悪いかをさらけ出した上で再生の道を探る、という筋立てだから前向きではある。ただし読了後も「結局無理なんじゃない?」という感想を抱かせる歯切れの悪さもあった。

私は新聞に縁が薄いので、「押し紙」の話などはふーん、さもありなんと好奇心を持って読んだ。もう長いこと新聞は取っていないしついでにテレビも滅多に見ないし、昼間家にいないから新聞の勧誘員に遭遇することもない(ひとり暮らしの時はドアホンは無視してた)。本書では朝日と読売の二大巨頭に対抗して、毎日・産経・中日が業務提携するという起死回生策が提案されているが、ぴんと来ない。子供の頃実家では日経と地方紙を購読していて、それは今でもナイス選択だと思う。その他の新聞は旅先のホテルなんかでしか読むことはなく、なくなっても困らないと言うのが正直な気持ちだ。

ただし私は紙の新聞というメディア自体には興味を持たないが、読売のポッドキャストニュースは愛用している。土日祝は配信してくれないのが不満なくらい、必ず聴いている。なので第五章「IT社会と新聞の未来図」は非常に面白かった。新聞業界はITビジネスはおカネにならないという現実に突き当たって、腰がひけている。ここであの「EPIC2014」を取り上げて、検索と配信のどちらのシステムに軍配が上がるか、疑問を投げかけている。ロングテールかコンテンツ勝負か、といったところだろう。どうかな〜。日本の新聞社にその土俵に立てる体力があるのだろうか。

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2007年7月 7日

音楽を「考える」 / 茂木 健一郎 江村 哲二

音楽を「考える」音楽を「考える」
茂木 健一郎 江村 哲二

筑摩書房 2007-05
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脳科学者の茂木健一郎さんとと作曲家の故江村哲二さん(6/11膵臓癌で死去)の対談集。江村氏は工学部出身で独学で音楽を学んだと言う異色の理系音楽家。茂木さんは科学者だけどアートや音楽に造詣が深い。よって話の軸は「音楽」だけど、話題は幅広い。ジョン・ケージは音楽界のデュシャンだ、とか。そしてとてもわかりやすく、クラシックの奥深い魅力が熱く伝わってくる。読後まずバッハをちゃんと聴こうと、名演と言われるCDをまとめてHMVで注文した。

そもそもこの本は『フューチャリスト宣言』を買う時に見かけて一緒に購入した。つまり茂木健一郎さんめあて。クオリアでお馴染みのマルチな脳科学者さんであり、ブログをはてなアンテナに入れているので、そのめまぐるしい活動ぶりはなんとなく知っている。テレビは見ないが、露出度は大きそう。本業は学者でありながら講演に執筆にテレビ出演に雑誌等のインタビュー、アウトプットがものすごい。こういう生き方をしている人はいずれ枯渇するのが普通だと思うのだが、茂木さんの場合は何か期するところがあってわざと無茶を続けているように見える。自分を使った人体実験と言うか、走り続けて凡人の届かぬ高みに飛び込もうとしているような。

話がそれた。本書において成程〜と思った話。「聴く」ことと「作る」ことは対称を成す行為。聴くという行為を自分に合う音楽を探すこととすれば、それは受け身ではなく創造的なのである。「だからいろんな作品を聴かないと」という茂木さんの言葉に頷いた。あと、フロー状態に関する話が非常に面白かった。フローに入った時本人には無理しているという感覚が全くないが、脳の中では大騒動が起こっている。そしてそこから立ち直るため創造性が発揮される。タガが外れたフロー状態は実は危険、そこから脱出しようとするのは一種のホメオスタシスであると。あーこれも茂木さんが話をまとめているわけだが、それを理解できる江村さんもただ者ではない。

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2007年6月30日

官僚とメディア / 魚住 昭

官僚とメディア官僚とメディア
魚住 昭

角川書店 2007-04
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共同通信の記者であった魚住氏が、ここ2年ほどの間に「月刊現代」や「AERA」に執筆した文章が元になった本。面白くて、休日にたまたまバッグに入れて出かけたところ、移動時間や何かでたちまち読了してしまった。忘れかけていたニュースについて思い出し、魚住氏の視点で内幕を見つめ直すことで、自分が社会的な事件に対してマスメディアの論調を鵜呑みにしていたことを痛感した。素直に、いい本だと思う。

本書で取り上げられている主な事件は、「耐震データ偽装事件」「國松長官銃撃事件」「ライブドア・村上ファンド事件」「NHK番組改編問題」、そして裁判員制度の「世論誘導プロジェクト」。姉歯事件はかなりショッキングだったけど、一部はマスコミが作り出した架空のスキャンダルだったよう、だ。ライブドア・村上ファンドの一連は膨大なブログが言及していたので、検察の暴走、という図式が一般にも浸透していたように思う。佐藤優『国家の罠』の影響も大きい。一番面白かったのは、裁判員制度を巡って最高裁と電通と共同通信・地方紙連合が、27億円と言う広報のための国家予算に群がって手を組んでいたという件。私は性善説を取る人間だが、ここまでえげつないことをやられると、どこを見て何を信じて生きていったらいいのやらと思う。安穏としていられない。と言うか、見ないフリして安穏としていた方が悪いか...。

現状に問題意識を持つジャーナリストは多いのだろうが、いやジャーナリズムに限らず、組織はなぜ腐っていってしまうんだろう。内部にいる個々の人間が腐っているとは思えない。誰が監視をすべきか。それは一般人である自分じゃあないと逃げていたら、何も始まらない気がする、

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2007年5月20日

フューチャリスト宣言 / 梅田 望夫 茂木 健一郎

フューチャリスト宣言フューチャリスト宣言
梅田 望夫 茂木 健一郎

筑摩書房 2007-05-08
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昨年7月から今年の1月の間に3回に分けて行われた対談をまとめたもの。先日京都に行った帰りの新幹線で一気に読んだ。今までの著作に較べて内容がフレッシュ。CNET Japan時代から梅田さんのファンでブログを読み続けてきているので、『ウェブ進化論』『ウェブ人間論』『シリコンバレー精神』はすべて既知の梅田さんの精神を確認した、という感じだったのだ。しかも今回は対談相手があの「打てば響く」の茂木健一郎さん。話の展開が早い。梅田さんがリラックスして会話を楽しんでいるように見える。

茂木健一郎さんのブログ、クオリア日記は大竹伸朗 東京芸術大学 講義目当てで見に行って以来RSSリーダーに入れている。あの音声ファイルの講義は良かった。茂木さんの頭の回転の速さ(実際早口だ)・キレの良さがよくわかった。ブログ自体は更新が頻繁なので読み切れていないのが現状だが。しかも著作『脳内現象』を買ってみたがは私には難しくて、途中まで読んでそのままになっている。「意識」の本は好きなんだけど。

本書の構成は

はじめに(茂木健一郎)
第1章 黒船がやってきた!
第2章 クオリアとグーグル
第3章 フューチャリスト同盟だ!
第4章 ネットの側に賭ける
梅田望夫特別授業「もうひとつの地球」
茂木健一郎特別授業「脳と仕事力」
おわりに──フューチャリストとは何か(梅田望夫)

となっている。

茂木さんの「はじめに」と梅田さんの「おわりに」は互いに強力なエールを送り合っている。茂木さんは下手したら梅田さん以上にオプティミストかもしれない。ネットに熱い期待を寄せている。そして楽観的であり続ける梅田さんの意志の強さを讃えている。梅田さんはやっぱり大人と言うか、学者としての茂木さんのスタイルを擁護するような評し方をしている。マルチな茂木さんは著作を始めた頃サブカル扱いされていたそうだが、今はどうなんだろう。梅田さんは『ウェブ進化論』が売れてからリアル層から変にバカ呼ばわりされたようで、本書内で何度もそのことに言及されていた。お気の毒。

さて本文の内容だが。付箋だらけだ。茂木氏の言う脳のシステムがインターネットの世界にも生まれて来ていると言う主張は腑に落ちない感じもあったが、脳も細胞もウェブも、要はネットワークなのだな。『新ネットワーク思考』を読んでいたので、何となく落としておくことにした。梅田さんの発言。「シリコンバレーの大人な態度」「ネットに消費されると言うより参加できることの大きさ」「ロングテールという言葉を書きまくってGoogle内での価値を上げた」「両方の気持ちがわかる」「本と新聞や雑誌は読まれ方が違う」「談合化社会を相対化したい」。茂木さんは科学者だから言うことがそれっぽい。「新しく出てきたものは毒性が強い」「使えるものは不完全であっても使っちゃうという発想は生物と同じ(オープンソースが話題)」「志向性というのは自分の経験の蓄積から決まってくる」「ネットへのアクセスって、いまや基本的人権の一つだという気さえする」「偶有性の中に自分を置いて、自分にある程度の試練を与えて、それを乗り越えた時に、ドーパミンが放出..」「警戒心を解くというのが、ネットで生きるための大切な知恵」。今読み返しても、面白い!

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2007年5月13日

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史 / ウィリアム バーンスタイン

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史
ウィリアム バーンスタイン William J. Bernstein 徳川 家広

日本経済新聞社 2006-08
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スコットランドのエコノミスト、アンガス・マディソンによると、1820年前後に世界経済史上の大断絶が存在する。それ以前には経済成長は存在していなかったのだそうだ。アメリカの高名な投資アドバイザーである著者が、「なぜ世界経済の成長と、その前提となる技術革新は、一八二〇年前後というタイミングで爆発的に起こったのか」をテーマに、19世紀初頭まで歴史を遡ってこの謎を解き明かしていく。経済史は同時に文明史でもあり、驚くほど豊かな内容を持った本に仕上がっている。

私たちがあの近代以前の貧しい状態に後戻りすることはもうないのだそうだ。半信半疑で読み進めて行ったが、定量データによる裏付けのある理論が構築されているので、非常に納得できた。

 <目次>

第1部 近代経済成長の源泉
 第1章 豊かさについての仮説 第2章 私有財産制 第3章 科学的合理主義 第4章 資本 第5章 動力、スピード、光 第6章 成長の理論を総括する

第2部 豊かな国、貧しい国
 第7章 勝ち組の経済—オランダとイギリス 第8章 キャッチアップした国々 第9章 取り残された国々

第3部 豊かさのもたらすもの
 第10章 神、文化、金銭欲、そして快楽主義の踏み車 第11章 成長か平等か—大いなるトレードオフ 第12章 勝者の呪い—富神マモンと戦争神マルス 第13章 成長の終わり? 第14章 いつ、どこで、そしてどこへいくのか

以下は印象に残った部分の概要。

第1章 豊かさについての仮説
ここで重要なキーワードが出てくる。持続的な経済成長のための必要不可欠な四要素、「私有財産権」「科学的合理主義」「資本市場」「迅速で効率的な通信・交通手段」だ。マディソンらの世界経済史によると一人当たりGDPで測られる平均的な個人の生活水準が急激に上がり出すのが1820年頃であり、この近代経済成長の四要素が揃った国から着実な成長が始まる。人類の歴史を極端に単純化すれば狩猟採集段階→農業段階→工業段階→脱工業段階となるが、19世紀に工業経済に良循環が作動し始めた。脱工業化が始まったのは20世紀末となる。

第6章 成長の理論を総括する
ここに素敵な一節がある。

また、金融と言う血液は、近代の通信技術が可能にした情報の激流の中を流れている(P236)

投資アドバイザーらしいコメントだ。ただし経済成長にとってどれが一番重要、という要素はなく、四要素すべてが不可欠であると断言している。

第8章 キャッチアップした国々
近代経済成長が真っ先に始まったのはアメリカとイギリスである(それ以前、16世紀オランダで持続的な経済成長が認められたがそれは緩やかなものであり、複雑な理由で衰退していった)。これに続いた国々の中でフランス、スペイン、日本が取り上げられている。日本は鎖国により近代化が阻害されていたが、明治維新により劇的な変貌を遂げ、例の四要素が整っていった。更に敗戦後「アメリカの軍事の傘」のおかげで防衛予算をGDPの1%にとどめることができたのが大きいと言う。この軍事支出は、大国のほとんどを破滅させる魔物なのだそうだ。今後の日本はどういう方向に歩めば良いのだろうか。

第9章 取り残された国々
現代アラブ社会、ラテンアメリカが取り上げられている。オスマン・トルコの崩壊とスペイン植民地支配の負の遺産を引き継いだラテンアメリカ。

第11章 成長か平等か—大いなるトレードオフ
経済が成長しても、私有財産制により富の分配における不平等は解消されない。不平等感は社会全体の幸福感を悪化させる。パラドックスだ。スカンジナビア諸国はある程度の経済成長を犠牲にして、高課税により富の再分配を試みている。アメリカは不平等がどこまで許容されるか試しているような姿勢。

第13章 成長の終わり?
ちょっと安心したが、将来の具体的な破綻については「見当もつかない」とされている。面白い見方として、豊かさが続くことで国民精神の危険や苦痛に対する許容度が下がり、行政サービスへの要求が増大し富を食い潰していくという予測があげられている。

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2007年4月21日

暗算の達人 / アーサー・ベンジャミン、マイケル・シェルマー


暗算の達人

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書評/サイエンス

副題が「驚異の高速暗算テクニック」。このタイトル通り、真面目に読めば(練習すれば)凡人でもかなり複雑な計算をこなせるようになる。単に数式を「分解」して単純化するだけなのだが、その道筋には時々「えっ」と思うような抜け道が使われていたりする。でもきちんと代数式の裏付けがあるので、あくまでタネもシカケもない、正々堂々としたテクニックなのである。

著者のひとりアーサー・ベンジャミン氏は、カレッジの数学の教師でありハリウッドのマジック専門劇場のマジシャンでもある。別にトランプやロープや剣を使うわけではなく、数学マジック。難しい暗算を観客の前でやってみせることで立派なエンターテイメントになっているらしい。ま、トークも上手いのだろうが。そんな彼が自分の芸の秘密をさらけ出してしまうのがこの本だ。しかし・・・。五桁×五桁の掛け算(本書の最大の暗算)のやり方を、いくら手取り足取り教えてもらっても、私には一生できないと思う。できちゃったらマジシャンでしょう。

第0章 まずやさしい小手調べの暗算術から
短いけれど本書への期待を強烈に高めてくれる章。「二桁の数×11」は二桁の各桁の数を足して、間に入れる!32×11なら3+2=5なので352!85×11なら8+5=13なので10は繰り上げて935!ああ、11倍の計算が必要なシチュエーションに出会うのが待ち遠しい..。

第1章 増やしたり減らしたり:足し算と引き算の暗算
この辺は気持ちのいい頭の体操だ。足し算と引き算は、右(下位の桁)からじゃなくて左(上位の桁
)から計算する。えー、桁上がりはどうなるの?いや、大きい位から計算しても桁上がりの処理は同じだ。数字は左から読むのが普通なので、計算も左側からやっていくと途中式を記憶し易い。練習問題がたくさん付いてるので(巻末に答え)、ぶつぶつ数字を唱えながら慣らして行くと良い。ちなみに今回この本を読むのにかなり時間がかかってしまったのだが、理由は私が数字に弱いということと同時に電車の中で読書するのが習慣のため、集中できなくて練習問題を解くのに手間どったせいでもある。人目を気にしないで済む場所で一気に読了すべきだった...。

第2章 子どものころ熱中した:掛け算の暗算
掛け算も左から右!とにかく数字を分解して、なるべく簡単な掛け算に変えてしまうのがコツ。69は70-1として扱えば合理的。二桁の数の二乗が暗算できることを知り、結構感激した。ま、私のレベルでは実用できるのはこの章までかと...。本書読了後の判断。

第3章 掛け算を磨く:いろんな工夫を使い分けよう
二桁×二桁、三桁の二乗、二桁の数の三乗とグレードアップしていく。計算途中で覚えておく数が増えてくるので、集中しないと練習問題を解けない。でも鍛錬次第で、十分こなせると思うレベル。

第4章 割って割ってやさしく:割り算の暗算
「割り算の暗算は、まず最初に、答えが何桁になるか考えます」、ここがポイントか。やっぱり数学的センスのある人は発想が良い。ここで出てくる「親指の法則」は記憶力の悪い私を勇気づけてくれた力強いツールだ(笑)。片手で10まで記録する。割り算を分数化する、という発想も合理的だ。やはり割り算はやや複雑なので(少数がからむ)色々テクニックが出てくる。でも実生活において割り算もかなり必要に迫られることが多いので、覚えておけばかなり役立つと思う。

第5章 ざっとでいいのよ:概算の暗算
第6章 まだまだ現役:筆算の名人芸
このあたりはもうお手上げ、なるほど〜と感心するだけで読み流した。

第7章 お話なら覚えやすい:数を言葉で記憶する
複雑な計算を助ける、個々の数を覚えるためのテクニック。ニーモニック(Wikipedia)だ。原著は英語だから、訳者が気を利かせて日本語の当て語をしてくれている。が、ちょっと苦しいかも。ま、自分で創意工夫すれば良い。

第8章 難しいことをやさしく:高度な掛け算
第9章 スピードマジック:いろんな数を当てる
ここのマジシャン・ベンジャミン氏のプロ芸人のhow toが詰め込まれている。この人は本当に数字がすきなんだなあ。

さて読了しても理解は全然。手元に置いて読み返し、取りあえず2-3章までのテクニックをマスターするのが私の当面の目標だ。それをしないのは、あまりに惜しい。この手の本としてはかなりの良書。

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2007年3月28日

基礎からわかるナノテクノロジー / 西山喜代司


基礎からわかるナノテクノロジー

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書評/サイエンス

2006年10月に創刊された、ソフトバンククリエイティブ株式会社の「サイエンス・アイ新書」(特設サイト)の1冊。科学とITをテーマに、サイエンス系に特化したシリーズらしい。即効性がありそうだ。ナノテクノロジーというトピックには非常に興味があったので、わくわくしながら読み始めた。素晴らしい。簡潔な文体で段階的にナノテクに関する知識を与えてくれるのだが、豊富な図解と2種のキャラクターの噛み砕いた解説が更に理解を助けてくれる。冗長さがないところが良い。

ナノはマイクロの千分の一。マイクロはミリの千分の一で、歯科ではマイクロエンドとかマイクロサージェリー(20倍くらいの顕微鏡を使う)が流行っているが、更にはるか上の世界だ。いや歯科でも材料の理工学的性質の向上がハイエンドな治療を産むわけで、ナノテクノロジーの恩恵は十分受けているはず。材料屋さんにもらった職場のカレンダーに「ナノテク云々」と書いてあった。再生医療などにおいて検証に絶対不可欠な走査型電子顕微鏡(SEM)も、ナノの世界だ。

さて本書の内容。印象に残った部分を抜粋する。

第3章 炭素は結晶構造で姿を変える
炭素はナノテクノロジーを象徴する素材のひとつである。シャーペンの芯もダイヤモンドも炭素の構造物だ。シャーペンの芯はグラファイトであり、結合強固な平面状原子配列を成すが面間の結合は弱く、結晶全体としては剥がれやすい。剥がれたものが紙にこびりつく。わかりやすい!注目のカーボンナノチューブを発見したのはNECの飯島澄男氏。鉄よりもはるかに強くはるかに軽い夢の素材だ。顕微鏡の探針として使えばより精密な観察ができる。半導体デバイス、次世代大型ディスプレイ、クリーンで駆動時間の長い燃料電池などが開発中とか。

第4章 情報技術とナノテクノロジー
ナノテクノロジーは加工精度の高さにより半導体技術のブレークスルーとなる。単一電子メモリ(電子1個を制御する)は今では考えられないくらいの大容量メモリを可能にする。単一トランジスタは高性能低消費電力のコンピュータを実現。磁気ディスクの高密度化、次世代大容量光ディスク。分子コンピュータにDNAコンピュータに超高速量子コンピュータ!いやあもうSFの世界としか思えない...。

第5章 バイオテクノロジーへの応用
バイオテクノロジーへの応用は更に素晴らしい。DNA解析チップ使った遺伝子解析で個人個人に合った医療が可能になる。ナノスケールのマイクロカプセルで、ドラッグデリバリーシステムを。バイオチップで体内の異常の早期発見。そして再生医療。ナノテクが癌を撲滅してくれるかもしれない。

気になったこと。アメリカでは2000年にクリントン前大統領が国家ナノテクノロジーイニシアチブ(NNI)というナノテク戦略を打ち出し国家政策としたため、普通の人でも量子力学の知識や関心が高いのに対して、日本ではほとんど関心が持たれていないと言う。半導体を核とした技術では日本は今なお世界最高水準のレベルにあると言うが、裾野の私たちももっと興味を持つべきではないか。

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2007年3月24日

ワインの個性 / 堀賢一


ワインの個性

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書評/グルメ・食生活

ワインは好きだがいつも安いのばかり飲んでいる。質より量(笑)。たまにまともなものをごちそうになると、やっぱり高いのは旨いなあと思うが、銘柄を聞いてもラベルを見てもほとんど理解できない。有名な葡萄の品種をいくつか知っていると言うくらいが私のワインの知識で、それがこんな日本を代表するワイン・ジャーナリストの著作の書評を書くなんて、恐れ多いことだ。でも本が好き!の決まりなので・・。

この本はエッセイ集であって、ガイドブックではない。膨大な知識と経験を持つ堀賢一氏が、徒然にワインを語る。と言っても、産地・栽培法・醸造法・熟成・ビジネス・ジャーナリズムと非常に系統立った章構成を取っていて、読みやすい。雑誌等に寄稿されたコラムをまとめた一冊なのだそうだが。一貫して感じ取れるのは、ワイン業界の在り方を冷静に見つめる堀氏の視線。そして醸造技術の均一化や消費者(批評家)への迎合により個性を失いつつある(ブラインドテイスティングが不可能になってきた)現代のワイン事情を、ちょっと寂しそうに語る、誠実さ。

淡々とした文体ながら濃い情報を伝えてくる本なので、読了に数日かかった。ここは飛ばしていいなと思う箇所などなく、ひたすら吸収。バローロは3種類ある。伝統派、改革派、急進派。フランスでは収穫前の畑にビニールシートを敷くことを禁止している。畑の格付けというヒエラルキーが崩壊する可能性があるから。ヨーロッパでは政治的な理由で灌漑が禁止されている。1996年にこれを解禁したスペインでは高品質のワインが生産されている。ボルドーで行われているような葡萄のブレンドは当初便宜的な手法だったのだが、消費者に受け入れられた今ではスタンダードとなった。接ぎ木のコストはワイン1本あたり5セント。遺伝子組み換え技術は有効と思われるが消費者が受け入れる見込みがなく、研究は進めど実用化のめどは立たない。ワインの出所、「プロヴェナンス」によりワインの価格は変わる。ロイド・ウェーバーのコレクションには市場価格の2倍の値がついた。ネット上のワインショップには詐欺広告が多い。ロバート・パーカーの呪縛。

こんな具合に知識の宝庫である本書だが、読了後に残ったのはワインに対する慈しみの気持ちだ。堀氏のそれが伝搬したのだろうか。今後ワインを飲む時は背景を想像しその個性を感じ取ってあげたいと、思った。

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2007年3月14日

五〇〇〇年前の日常—シュメル人たちの物語— / 小林登志子


五〇〇〇年前の日常—シュメル人たちの物語—

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書評/歴史・時代(F)

学者というのは嘘を書いてはいけない職業だ。検証可能な事実だけを列挙して、考察を展開していかなければならない。捏造なんてもっての他だ。そういう意味で、この本はすごい。遺跡から発掘された石板だの粘土板だの遺品だの、極めて限られた資料から5,000年前の古代人の生活を生き生きと甦らせようとしている。

著者の小林登志子さんは古代オリエント史専門の歴史学者。現在NHK学園の講師で、著書は他に『』シュメル—人類最古の文明 (新書) 』『古代メソポタミアの神々—世界最古の「王と神の饗宴」 』(共著)がある。

本が好き!の内容紹介によると

人類最古の文明人はなにを考え、どのように生きたのか? 楔形文字で刻まれた喜怒哀楽!

古代メソポタミアにも教育パパや非行少年がいた! 歴史上初めて文字を発明し、最初の都市社会に生きた人々の生活はどのようなものだったのか? 遺跡から発掘された粘土板を読み解き、自意識過剰な王、赤ん坊に子守歌を作ったお妃、手強い敵を前にして泣きつく将軍など、人間くさい古代人の心情と実情を浮き彫りにする。


となっている。巧みだ。そそられる。で、献本を申し込んだ。古代史は即ロマンだ。

さて一気に読んでみて。内容は実はさほどエキサイティングではない。でも実直で、味わい深い。シュメル人は紀元前3,000年頃メソポタミア最南端(現イラクのあたり)に出現した。楔形文字を発明したことで知られるが、その前身の古拙文字は世界最古の文字ではないかと言われている。文字があってこそ後世に文化の記録が残る。この時代の歴史が残っているのはシュメルとエジプトだけ、日本は縄文時代で文字はなかった。この辺の確認だけで教養が深まったような気がする。文字が刻まれたのは王達が遺した石や粘土板。写真やイラストを多用してどこから何が読み取れるか、丁寧な説明がなされている。ヌード女性やたいやきのパン型とか、「シュメルのモナ・リザ」石像とか、面白いものもある。女性に関する記録はほとんどないが、それでも后宮の会計簿などある程度の推測がされている。王妃はやはり「殉死」させられていたらしい。

科学のない時代に生きるシュメル人たちは、神を祀り頼ることで心の平安を得ようとした。日常の瑣末事に関しては「個人神」を作ってお願いしたり。宗教とは生活の知恵なんだな(現代と変わらない)。長い治世を誇ったシュルギという王の生涯を追うと(死後子孫はすぐに没落したが)、世界史に残る王や皇帝の原型、という感じがした。色々な意味でシュメル人たちは人類の社会や文化の雛形を作ったようだ。

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2007年3月13日

パワーズ・ブック / 柴田 元幸編

パワーズ・ブックパワーズ・ブック
柴田 元幸

みすず書房 2000-04
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邦訳の少ないリチャード・パワーズの解説書。本人のインタビューを含む多角的パワーズ論が満載。柴田元幸先生のお力による労作だ。どうもありがとう、とっても参考になりました。

・高橋源一郎「「正しさ」の前線を下げよ」 —パワーズと「現代小説」の条件―
面白いタイトルだ。近代小説は、デカルトのコギトの影響か「私」の実在を絶対的な前提に世界を構築していく。パワーズ、つまり現代小説では絶対的な存在はあり得ないとする。例えば歴史においては個人の存在や心理などより、固有名詞こそ疑い得ないものであり、パワーズやピンチョンは歴史的認識を持って小説を書く。この「認識」こそが、現代小説の持ちうる数少ない武器なのだ。...意訳に近い要約です。

・伊藤俊治「世界のねじれの影のなかから」
『舞踏会へ向かう三人の農夫』が書かれるきっかけとなったドイツの写真家アウグスト・ザンダーに焦点をあてる。ザンダーはあらゆるドイツ人の「顔」を記録しようとした。写真というメディアにより顔は均質化される、それはカメラが距離と視点の装置だからだ。距離の取り方により個体間の差異は消え、普遍概念だけが残る。新しいリアリティだ。リチャード・パワーズはザンダーの視覚にインスパイアされた、としている。

・リチャード・パワーズ スヴェン・バーカーツ対談「二つの弧が交わるところ」
この本の白眉。作家の肉声だ(電話インタビュー)。第6作『ゲイン』出版前。パワーズの読書履歴が面白い。まずノンフィクションにのめり込むが、学問の世界では原理に近づくほど専門バカになってしまうことを知り、フィクションの世界の幅広さに気づく。物理学から文学への転向の所以だ。ジェイムズ・ジョイスから「想像力を生み出す視差」を知ったと言う。並行するストーリーが平面から三次元の世界を作り出す。これって今やパワーズの得意な手法では。...以下印象に残ったコメント。トップ・ダウン型の作家。有機体のグランド・デザインと同様、小説の文体の個性は全体に必要な役割を果たすべき。本とはモラトリアムだ。視差を作り出す、悲観的な視点を浮上させるために楽観主義を用いる。文章を書くということは破壊的なテクノロジーだ。

・坪内祐三「その農夫たちの「まなざし」が気になって」
やはりザンダーの写真を取り上げている。農夫たちの視線について。彼らは写真家よりもっと向こう、の何かを見ている。その視線に、我々は囚われる。自分がまなざしの対象なのでは。視点というのは面白いものだ。ベンヤミン『図説 写真小史』より。「絵とか、彫刻とか、いわんや建築は、実際に見るより写真で見た方が理解しやすい」「偉大な作品は、もはや個人が生み出すものとは見なされない。それは集団によって作られるものになった」。

・佐伯誠「かれらとともにぬかるみを歩いて」
これも『農夫』。「ひとりの人間の運命を、ひとりの作者が語る—そうした小説はすでに旧弊なものであることを知っているパワーズは...」と、彼の多元的・建築的な小説構成を解読している。シニシズムを滲ませることのない清爽さとか、時代精神のセラピストとか、表現がカッコいい。

・若島正「黄金虫変奏曲」をめぐる変奏曲
珍しく邦訳出版前の作品の解説。大変に複雑な作品であるらしい。パワーズの科学の語彙の豊富さに関連して、文学的な科学者湯川秀樹と寺田寅彦を例に挙げている。これに関しては荒俣宏『理科系の文学史』というのが名著とか(読んでみよう)。『黄金虫変奏曲』はグールドの「ゴルトベルク変奏曲」(バッハ)がキーになっているようだ。対位法的構成。ピンチョン、ベケット、カルヴィーノという未読の作家たちがパワーズに並べられていて、彼らのことも知らねば、と宿題ができた。

・ジェイムズ・ハート「語りの力」―ストーリー・テラーとしてのリチャード・パワーズ
えらくストレートなタイトルだ。各作品を例に挙げてパワーズの語り口をナラティブ・セラピーと呼ぶ。セラピーを受ける側(読者)を癒すだけでなく、ナラティブ自体の可能性を探ることもパワーズの目的とする。第2作『囚人のジレンマ』の構造は非常に面白いらしい。「カラミン」という章の存在が、すでに2元的な構造にさらなる次元を加えるのだとか。『黄金虫変奏曲』ではDNAの二重螺旋がメタファーになっているとか、とにかく未読作品への期待を高める評論。パワーズのスタイルというものが、だんだんわかってきたような気がする。

・柴田元幸「『舞踏会へ向かう三人の農夫』小辞典」
こういう注釈が必要になるくらい、『農夫』は厚みを持った作品だった。さすが柴田先生だ。

・リチャード・パワーズ全作品案内
『舞踏会へ向かう三人の農夫』『囚人のジレンマ』『黄金虫変奏曲』『さまよえる魂大作戦』『ガラテイア2.2』『ゲイン』
原書で読んだ先生方が、ポイント的な文章を邦訳して原文と一緒に記述。興味深い試みだし、各作品のお味見をすることができるのが良い。
現在パワーズの著作は8冊目まで出版されている。

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2007年2月21日

内なる目―意識の進化論 / ニコラス ハンフリー

内なる目―意識の進化論内なる目―意識の進化論
ニコラス ハンフリー Nicholas Humphrey Mel Calman

紀伊國屋書店 1993-11
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『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 』(ASIN: 4314009683)、『赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由』(ASIN: 4314010177)に続いて読んだ、イギリスの進化心理学者ニコラス・ハンフリーの「意識」論。著者のサイトを見ると原著の初版は1986年とあるから、先の2冊(2002年と2006年出版)に至る源流のような本なのだろう。すでに彼の理論には馴染んでいたので、読みやすかった。人間は社会的存在であり、自己意識は他人の意識を類推するために生まれた人間特有の「能力」である。この能力によりヒトは地球上の絶対的な存在として進化した。

自己中心的・自意識過剰と言う言葉には他人を顧みないというイメージを持っていたので、その中心の「自己意識」はあくまで社会的協調の手段であるという主張は新鮮だ。高い自己意識を持つ個体が進化の過程で生存競争に打ち勝つ。なぜなら生活を維持するための技術は共同体の中で学習されるため、ここに加入できる心理学的気配りのできる個体でないと生き残れないのだ。この気配りは他者の意識を類推することにより可能となる。人間関係は社会的な技倆であると看破されて、少々あせりを感じたりして。意識は人間の生物学的機能の一部であると、ハンフリーは主張する。洞察は我々の最大の天賦の才であると。

意識というのは捉えがたく微妙な存在だが、これに関しては『喪失と獲得』や『赤を見る』に詳しく論じられている。本書でも小説や動物学や哲学者の言葉を引き合いに出して定義付けを試みている。こういう引用元の幅の広さは、この著者の魅力だ。絵画や文学に対する造形の深さ、そしてその解釈の鋭さに進化論を外れて感心した。

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2007年2月14日

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く / アルバート・ラズロ・バラバシ

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
アルバート・ラズロ・バラバシ 青木 薫

NHK出版 2002-12-26
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米ノートルダム大学物理学教授、アルバート・ラズロ・バラバシの著作。凡庸な邦題だが(原題はLINKED : The New Science of Networks)、内容的には間違っていない。読む前はインターネットの仕組みを解く本と勘違いしていたのだが、実際は宇宙・人間関係・ウィルス・ウェブ・細胞・経済と多岐に渡る世界におけるネットワークの構造(全て共通原則を持つ)を学術的に解明して行く。「ネットワーク」という研究テーマは物理学のものなのか...と不思議に感じたが、バラバシは構造物理学者なのだそうだ。なるほど、物体や量子の運動の計算をするばかりが物理学ではないのだな。

あまり関係ないが、この本は装丁がよい。読んでいる間はカバーをかけていたが、水色の空に浮かぶ雲、そしておそらくネットワークの具象。優しげで手に取りやすい。文章も平易で、新しい理論を勉強しているという堅苦しさを感じない。実はかえって物足りなかったりして。

第1章(序)で、まずエピソードとして2000年にYahoo!が受けたハッカーの攻撃と、伝道者パウロが取り上げられている。異教であったキリスト教が世界に広がったのはなぜか。パウロが自分の知る社会的リンクを最大限に利用してメッセージを伝搬させたのだ。現代のwebの話より、こういう歴史解釈の方がなぜか面白く感じる。今まで読んだ進化心理学の本でも、キリスト教は分かりやすい例えとしてよく取り上げられていた。「われわれはみな連結されている」。バラバシは言う。還元主義(理解するために構成要素を知る)から複雑系(自己組織化機能を持つ巨視的現象?)の時代となった現在、ネットワーク研究は革命的なテーマとなったのだ。

まず宇宙を例に取る(第2章『ランダムな宇宙』)。宇宙は広すぎて、観測ではなく数学の力で探索しなければならない。冥王星が発見されたのはオイラーの方程式がきっかけだった。エルデシュ=レーニイのグラフ理論はネットワーク科学の基礎、ランダム・ネットワークを生み、宇宙の仕組みをモデル化して見せた。しかし「現実はランダムではない」。

『六次の隔たり』(第3章)という仮説はハンガリーの作家カリィンティの「鏡」という短編で(おそらく)はじめて活字として言及された。世界の誰とでも6人でつながる。人的ネットワークの構造を端的に表す。数年前に流行ったケヴィン・ベーコンゲームはこれを利用した遊びだ。これがwwwになると、大雑把に計算して19次の隔たり。でも、誰(ノード)もがこの平均距離を保って存在するわけではない。世の中には人気者(ハブ)がいるものなのだ。

ハブのまわりにクラスター(緊密な関係)を形成するノードが集まり、社会を形成する。ただしこの社会の構成法則はランダム・ネットワークではあり得ない。ランダム・ネットワークはコネクター(知り合いの多い人)の存在を認めないからだそうだ。80対20の法則(パレートの法則)、ベキ法則をネットワークにあてはめて行きながら、バラバシが造り出したのがスケールフリー・ネットワークだ。「平均」や「特徴的な」という考え方が存在しない、複雑系に対応可能な概念。経済界、人間界、インターネット、医学界、自然界(つまり世界のほぼ全て)を例に取り検証が進められて行く。

初期のエイズ感染者におけるハブであったガエタン・デュガのエピソードが面白かった。悲惨だけど分かり易い例だ。マーケティングの失敗例としてアップル社の「ニュートン」が数度言及されているのが、Macファンとしてちょっと痛い(ジョブズ復帰以前の話だが)。Googleなどの検索エンジンがwebの中のごく一部しか把握していないとは知らなかった。地球は無数のセンサーという「皮膚」を持った巨大なコンピュータになりつつある。ヒトゲノムは複雑系であり、ネットワークとして読み解かなければ具体的な医学の進歩につながらない。ネットワーク思考で革命が起きるのは生物学においてだろうと、バラバシは予言している。

あまりに内容豊富な本であるため、印象に残った部分を取り上げるだけで長くなってしまった。終章(第15章『クモのいないクモの巣』)で、バラバシはクリストとジャンヌ=クロードというアーティストの作品を例に取り自分の研究を総括する。

彼らの作品には「隠すことで明らかにする」という力強い哲学がある。細部を隠すことにより、二人はわれわれに形の全体性を見せてくれるのだ。.....細胞や社会のような複雑な系の背後にあるネットワークを見るために、われわれは細部を隠した。ノードとリンクのみを見ることによって、複雑さのアーキテクチャーを捉える特権を手に入れたのだ。(P318)

この部分が特にツボだった。読み返してみると得るものの非常に多かった、良書である。

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2007年2月 7日

世界は村上春樹をどう読むか / 柴田 元幸 藤井 省三 沼野 充義

世界は村上春樹をどう読むか世界は村上春樹をどう読むか
柴田 元幸 藤井 省三 沼野 充義

文藝春秋 2006-10
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国際交流基金主催で2006年3月に開催された国際シンポジウムの記録本。残念ながら作家本人は不在だったようだが、世界各国の村上文学の翻訳者たちが一堂に会して「ハルキのここが好き」と語り合う、熱いイベントだ。『海辺のカフカ』(Kafka on the Shore)がニューヨーク・タイムズの"The Ten Best Books of 2005"に選ばれたり、2006年には村上氏がフランツ・カフカ賞を受賞しノーベル賞も!?という期待が高まったのは記憶に新しいところだが。このシンポジウムに招待された17ヵ国23人の翻訳家・作家・研究者の顔ぶれを見ると(柴田元幸先生以外全員の顔写真が掲載されている)、その多彩さにびっくりする。そして「世界が村上春樹を読んでいる」という圧倒的な事実を実感した。

冒頭のリチャード・パワーズ(Amazonco.jpへリンク)の基調講演が素晴らしい。近年の脳科学によって明らかにされつつある自己と社会のミラリングを、村上春樹はすでに本能で知り作品の中で描く二重世界で体現していたと言う。最近進化心理学の本を数冊読み「自己とは」「意識とは何か」という問題に興味を持っていたので、個人的に非常にツボな指摘だった。ちなみにパワーズ自身も現実と幻想をリアルに錯綜させる優れた作家だ。さて"Global Distributed Self-Mirroring Subterranean Neurological Soul-Sharing Picture Shpw"という原題は柴田元幸先生によって「ハルキ・ムラカミー広域分散ー自己鏡像化ー地下世界ーニューロサイエンス流ー魂シェアリング・ピクチャーショー」と訳されていた。淡々と訳語を羅列しているだけのように見えるが、そのシンプルさが村上春樹の世界に通じているような..。パワーズの『舞踏会へ向かう三人の農夫』(ASIN: 4622045176)も柴田先生が訳されているが、この時は作家の理知的で縦横無尽に広がる思考世界をかなり忠実に再現されていたように思う(原著は読んでないけど)。

パネル・ディスカッションが始まると各国翻訳者達が次々に登場する。国際シンポジウムでは(国内開催でも)英語の苦手な日本人が肩身の狭い思いをすることが多々あるようだが、彼らはほとんどが日本語で発言してくれている。活字化された文章では発音まではわからないが、皆雄弁だ。村上氏の言葉は平易で翻訳しやすいと言われているが、それでも言語構造の違い(人称、固有名詞、カタカナ)によって意訳に頼らざるを得ない部分もあり、村上ワールドをこよなく愛しその魅力を自国の読者にストレートに伝えたいと願う翻訳者にジレンマを与えているようだ。作家本人に問い合わせると「おまかせします」と鷹揚な返事がかえってくるのだとか。「翻訳本の表紙カバーを比べてみると」というセッションは視覚的に「外国語化された村上春樹」に触れることができて、面白かった。

事後余録として3名のアドバイザー+裏方の国際交流基金の佐藤幸治氏の文章が掲載され、プロジェクト発生からイベントの舞台裏、各人のスタンスなとが描かれていて良かった。本としてびしっとまとまっている。私自身は村上春樹の熱烈なファンではないのだが(『海辺のカフカ』は高く評価している)、今『風の歌を聴け』にさかのぼってムラカミワールドにどっぷり漬かりたい誘惑にかられている。

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2007年1月13日

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで / サイモン シン

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
サイモン シン Simon Singh 青木 薫

新潮社 2001-07-31
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この本はEメールを使う人間なら皆読んでおくべきだと思う。スコットランド女王メアリの裁判に始まって、鉄仮面、宝探し(ビール)、軍用暗号、そしてエニグマと興味深い史実に絡めてサイモン・シンは暗号の発展の歴史を語っていくのだが、ロゼッタストーン解読の話に来てふっと実感する。暗号が現在進行形のツールであることに。第VI章「アリスとボブは鍵を公開する」はまさに現代の物語だ。鍵配送問題の解決によりEメールのセキュリティが確立された。公開鍵暗号という概念、詳しく解説されているが関数が絡むので私は理解しきれなかった。でも20世紀末に奇跡が起こったのだと、実感した。第VII章「プリティー・グッド・プライバシー」より。

P389:しかし情報化社会が成功するか否かは、世界を駆けめぐる情報が保護できるかどうかにかかっている。そして情報が保護できるかどうかは、協力な暗号が使えるかどうかにかかっているのだ。

P410:アメリカでは鍵のサイズは制限されていないが、アメリカのソフトウェア会社は今もなお。強力な暗号をサポートする製品の輸出を許可されていない。そのため、アメリカから外国に輸出されるブラウザーは短い鍵しか扱えず、まずまずのセキュリティしか保証できないのである。

P414:読者が本書を読む頃までには、暗号政策をめぐってさらに紆余曲折があるだろう。しかし、将来の暗号政策に関してひとつはっきりしているのは、何らかの認証機関が必要だということだ。

最終章は量子コンピュータの展望。量子物理学、どんなに噛み砕いて説明してもらっても頭がこんがらがる。でもサイモン・シンは胸躍らせてこの本を書いたのだろう。締めくくりが壮大でありかつ夢があり、私もどきどきしながら読み終えた。

P462:量子暗号は暗号作成者と暗号解読社者の戦いにピリオドを打ち、暗号作成者が勝者として立ち現れるだろう。量子暗号は解読不能な暗号システムである。
P463:量子暗号システムが長い距離で使えるようになったとき、暗号の進歩はそこで止まる。プライバシーの探求劇も、そこで幕となる。

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2007年1月 8日

赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由 / ニコラス ハンフリー

赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由
ニコラス ハンフリー Nicholas Humphrey 柴田 裕之

紀伊國屋書店 2006-11
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去年の暮れから読み始めた。『喪失と獲得—進化心理学から見た心と体』(ASIN: 4314009683)を書いたニコラス・ハンフリーの新しい著作。2004年春のハーバード大学の講義に基づいて書かれた。視覚と感覚、意識の研究。理解しにくいけどとても興味深い展開なので、2度読んだ。アートって何なんだろうという日頃の疑問に対して思いがけず示唆を得られたのが、非常にうれしかった。

以下は図書館の本なので付箋を付けたところを抜粋。えらく長くなってしまった。

P8:..意識とはいったいぜんたい何なのか。この謎に迫るのが本書の目的だ。イギリスの心理学者スチュアート・サザーランドは1989年に刊行した心理学辞典の中で、ひどく冷笑的な意識の定義を与えている。「意識とは、興味深いがいわく言いがたい現象である。それが何であり、何をなし、なぜ発達したかを特定することはできない。それについて読む価値のあるものは、いまだ書かれたためしがない」

P20:Sはスクリーンを眺めるとき、真に驚くべきことをやってのける...彼は、赤い感覚を経験していると自らが呼ぶような特別な意識の状態を生み出すのだ。

P22:画家のブリジット・ライリーは、感覚について、こう書いている。「すべての人にとって、色彩とは何物かとして経験される。つまり、あたかも実体を持つもののように目に映る。」プラトン哲学に通じる「実体」という言葉を使っているところが、意味深長だ。

P26:ロシアの画家ヴァシリー・カンディンスキーは書いている。「色は魂を直接揺さぶる力だ。色は鍵盤、目はハンマー、魂はたくさんの弦を張ったピアノである」。しかし、一つの音ばかりを発する、「赤すること」のような、単独の色の感覚でさえ、そうとうの衝撃を持ちうる。

P33-34:ドイツの論理学者ゴットロープ・フレーゲは...「経験は経験者なくしてはありえない。内なる世界は、その内なる世界の主人たる人間の存在を前提とする。」...Sは自分が感覚を作り出すと同時に、感覚が自分を存在せしめると感じても、少しもおかしくない。

P48:1785年、哲学者のトマス・リードは余人に先駆けて、感覚経験の重層的性質に明確な注意を喚起した。「外部感覚には二重の職分がある。私たちに感じさせることと、知覚させることだ。

P79:ほかの盲視の症例同様、H.D.の場合も、視覚があまり価値を持たなかったのは、それを自己の重要な延長部分として経験しなかったからだ。
そこで、感覚が不在だと、
・患者は自分の「自己」が不完全なものに思える。

P86:感覚経験=ニューロンの活動

P90:感覚とはいったいどんな種類のものなのか、くわしく見てみなければいけない。分析し、記述し直し、生物学的に進化した脳の中で起きていてもおかしくない種類のものと結びつけられるような方法を探す必要がある。

P102-103:「自分に局所的に何が起きているか」を問うときに求められる答えは、定性的で、現在時制で、一過性で、主観的なもの。ところが、「外の世界で何が起きているか」を問うときに求められる答えは、定量的で、分析的で、恒久的で、客観的なものとなる。...この第二の経路こそが、もちろん、私たち人間にお馴染みの近くの原型だ。

P109:等式の心の側に関しては、感覚を作り出す経験には身体表現を作り出す経験と多くの特徴を共有している事が、前半の分析で示された。そして脳の側に関しては、感覚がかつては実際に一種の身体表現だった類の活動の「子孫」であることを示す歴史物語を構築した。脳の側の活動が今ではバーチャルで潜在化され、身体もどきに向けたものであることは確かだ。とはいえ、その特徴、そしてその次元が、かつてのものと一致していると、十分考えうる。

P115-116:フリードリヒ・ニーチェは、意識の根底にある社会的次元を強調し始めた人の一人だった(ただし、その功績を認められることはめっったにないが)。彼はこう書いている。「意識は実際のところ、人と人の間のコミュニケーションの網にすぎない。意識はそのようにしか発達しえなかった。

P126-127:実際19世紀の哲学者ヘンリー・シジウィックは、芸術作品の本質はつねに言葉による説明を超越する、と主張した。「喜びあふれる芸術作品があったとして、その喜びを支えているように思える諸要素の客観的関係を、一般用語をつかってどんなに巧みに述べたところで、似たような要素を使ってその一般的説明に呼応する作品を制作しても、まったく喜びを与えてくれないものができる、という思いを禁じ得ない」

P128:ライリーが言いたいのは、そして絵自体の中では言葉よりずっと効果的に表現しているのは、感覚が「何かに似ている」という謎を解く鍵は実際、経験が時間の流れの中で直前の自分自身に似た姿を保ち続けるという事実の中にある、という考えだ。

P129:ライリーは抽象画的印象派の画家として知られている。もちろん、彼女も一つの伝統に属している。彼女より一世紀前、自然を描いた印象派の創始者クロード・モネは、他に先駆けて同じようなやや哲学的な問題に取り組んだ。太い筆で何層も重ね塗りをするという、ライリーとは非常に異なる技法で繰り返し同じ主題の絵を描きながら、モネは取り憑かれたように現在時制経験の特殊な性質をつかもうとした。

P132:ところが、モネはこうした従来の見方とはきっぱり決別した。ピサロが述べたように、モネはじつのところ「未来予持」にも「過去把持」にも興味はない。彼に興味があるのは「今」だけだ。永遠の現在の実情を描こうとする彼にとっては、未来も過去も何ら意味を持たない。つまり、モネはこう言いたいのではなかろうか。私たちは、感覚が意識に上がる、厚みのある瞬間に過去・現在・未来を融合させるのではなく、一瞬を捕まえ、そのありのままの姿にしがみつく、したがって、それぞれの瞬間はそれが起きている時間より長く起きているように感じられるのだ、と。

P138:...すなわち厚みのある時間の中に存在することに伴う実体性だ。中心にこれを持った自己は、侮りがたい、持ちがいのある自己になるだろう。そのような自己は、自然淘汰に酔っていっそう良い方向に進む可能性に満ちている。そしてさらに、個々の人間の精神生活を構成する基本原理になりうる。

P141:人類の進化の比較的遅い段階で、意識の厚みのある瞬間が自己を固定する錨としてすでにしっかり確立された後、変わり種の遺伝子が現れ、その影響で意識ある自己にひとひねりが加わり、人間の心が自らの性質を誇大視するようになったとしたら、どうだろう。...そうした印象を与えられた一人ひとりの人間、つまり錯覚に陥った人間が、より長く、より実り多い人生を送るとしたら。

P146:意識が謎めいた超自然的な性質を帯びるほどに、自己の意義はますます深まる。そして、自己の意義が深まれば、人間の自負や自尊心も高まり、各人が自分や他人の生命に認める価値は増大する。

P148:意識に上がる感覚と芸術作品の間に私が見出した類似性については、音楽家のあなたにもよくわかってもらえるのではないでしょうか。

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2006年12月20日

フェルメール全点踏破の旅 / 朽木 ゆり子

フェルメール全点踏破の旅フェルメール全点踏破の旅
朽木 ゆり子

集英社 2006-09
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ひとことで言えば「羨ましい」に尽きる、フェルメール踏破の紀行文。終章にあるように、年代順でなく所蔵都市ごとに見ていったことで体系にとらわれずに鑑賞できているようだ。プルーストに絶賛されたと言う『デルフト眺望』は絶対にこの目で見てみたい。

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2006年12月15日

ウェブ人間論 / 梅田 望夫 平野 啓一郎

ウェブ人間論ウェブ人間論
梅田 望夫 平野 啓一郎

新潮社 2006-12-14
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恵比寿の有隣堂で購入。中央ではなく新書コーナーに積んであった。装丁はシンプルだが帯が幅広で、ここに梅田&平野氏の写真を並べて目立つよう工夫してある。対談集なのでさらっと読めた。私はブロガー梅田望夫さんの大ファンであり、氏のブログで平野啓一郎さんの『葬送』を知り去年の今頃胸を震わせながら一気に読んだ。梅田さんの信奉者で平野氏の小説を読んでいない人は結構多いような気がするが、私としてはかなりはまる組み合わせだ。書籍化される前の「新潮」やネットに掲載された文章は読んでいない。

第一章 ウェブ世界で生きる
本のタイトルからホストは梅田さんかと思っていたが、「はじめに」を書いているのも各話題の口火を切るのも平野氏だ。梅田さんは受け止め、解説者の役割を果たされている。氏のブログを読み慣れているとたいして新鮮な内容ではないが、割とアナログな平野氏の視点がめりはりをつけてくれるので、ウェブの今、みたいのをおさらいしている感じ。匿名ブログに寛容な梅田さんの優しい眼がいいなあと思った。

第二章 匿名社会のサバイバル術
平野氏は匿名ブログに対して結構攻撃的。有名人なので過去に攻撃されたトラウマがあるらしい。彼のブログ分類法(5種)がユニーク。2ちゃんねるに結構言及されているけど、あれはまだやっているのか。梅田氏が「まあまあ」となだめている感じが面白い。

梅田 匿名、実名問題について言うと、匿名のブログを書いている人を沢山知っているけれども、そこでの人格はリアルな人格と同じケースが多いですよ。

リアルの生活と同じでブログも積み重ねなので、巧妙に別人格を作ろうとしても地は隠せない。と日頃思っているで賛成。最後に出て来る「ネットに関するリテラシー(生存本能)」というのはいい言い方だなと思った。そういうのを教える教室ができてもおかしくない。

第三章 本、iPod、グーグル、そしてユーチューブ
この章が一番面白かった。話が乗って来て、かなり真剣な議論になっている。本をネットに公開するという潮流に対してプロの作家である平野氏は当然著作権の危機、と捉えている。対する梅田氏も本には相当なこだわりを持ち出版社との関係も深そうだが、IT専門家として冷静に本というメディアのアドバンテージを分析。

梅田 本とCDが一番違うのは、本はプレイヤーがいらないスタンドアローンなメディアだということです。紙という「材質としての価値」がプレイヤーという機能として本に付随しているわけです。 

さすが本好き。ここから話がYouTubeやiPodやGoogleに流れ、いつの間にかはてなまで(笑)。締くくりに梅田氏が「オープンソースは資本主義に飲み込まれていなかった」というさわやかな見解を示した。

第四章 人間はどう「進化」するのか
ブログを書くことで人間は変容していくか。「島宇宙」がキーワードかな。両氏のこの言葉の捉え方のずれが、面白いと言うか楽しい。

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2006年12月13日

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか / リチャード ドーキンス

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか
リチャード ドーキンス Richard Dawkins 福岡 伸一

早川書房 2001-03
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『利己的な遺伝子』のドーキンスの、ちょっとくだけた感じの科学全般への啓蒙書。専門である動物行動学以外の科学分野に関する見識もしっかりしていて、その博識さに舌を巻いた。才人、いや天才か。私自身はその判断を下せるような人間ではない。 まず『虹の解体』というタイトルはキーツの言葉から来ている。キーツはニュートン(=科学)が虹の実態を解明してしまったことにより虹の美しさ(詩的さ)をぶち壊したと避難していたそうだ。21世紀に生きる私には「え?」という捉え方だが。ドーキンスはたくさんの詩や詩人を引き合いに出して自分は詩が大好きだと表明しつつ、これに反論していく。科学が解き明かした新しい世界はより神秘的で美しいと。そしていつしか論点は文学vs.科学ではなく正しい科学(=詩的で美しい)vs.エセ科学(=詩的を装ってデタラメを吹聴する)となる。巧い。 以下「へえ」と思った断片。
p83:私たちが光と呼ぶ幅の波長には、何も特別な意味はない。ただ、私たちにはそれが見えるということだけだ。昆虫にとっての可視光は、スペクトル上、かなりずれた位置にある。彼らにとっては紫外線も目に見える色であり(”蜂紫色”とでもいおうか)、代わりに赤色は見えない(つまり、彼らにとってその色は「黄外線」となる)。
p110:二畳紀や白亜紀の大絶滅ほどではないが、生物が大量に絶滅した時期がたびたびあった。それは、地層の年代記録によって確認できる。統計古生物学者たちは幅広い年代にわたる膨大な数の化石を集め、そのデータをコンピュータに登録してフーリエ解析を行い、周期的な変動を発見した、主要な周期は役二六〇〇万年の周期であった。このような非常に長い周期で絶滅のサイクルを引き起こすことが可能な要因は何か。おそらくそれは天体のサイクルのみである。
p162:だが星座の配置は、風呂の天井についた水滴と同じく、無意味だ。「海王星が水瓶座に入りこみました」などという言い回しがどんなに馬鹿げていることか。水瓶座というのは、ここからの距離がすべて異なる、さまざまな星の集まりである、その星々は互いに関係がなく、ただ銀河lから一定の(特に意味はない)場所(つまり此処)から見た時に、ひとつの(無意味な)パターンを構成するというだけのことだ。
p337:私たちの脳は、ものを認知する際、どんな問題を解いているのかを考えよう。
第11章『世界の再構成』は脳と意識のメカニズムについて探求する。
p341:情報の時間的な冗長性と同じように、この世界には、情報の空間的な冗長性というものが存在する。そして、神経系は、後者の冗長性に対しても、これまで述べてきたのと似たような仕組みを用いて対処する。感覚器官は脳に境界(エッジ)を画する為の情報を伝え、脳はそれらのあいだを補完して埋めるのだ。
p346:...神経系のフィルター的な構造は、その個体が住む世界の定常状態(変化が起こる前の状態について大まかな知識を保持している、と。それは、統計的なデータと言える。先の章では、統計学的直感についての話をしたが、神経系においても同じである。種の遺伝子は、祖先が生きぬいてきた世界についての統計的な記録を保持している。なぜなら、現存の遺伝子たちは、自然淘汰にさらされながら生きぬいてきたのだから。
このへんでお得意の「遺伝子」が顔を出す。独壇場だ。
p372:ヴァーチャル・リアリティーというメタファーは、面白いし、いろいろな面で妥当である。しかし、このメタファーは、以下のような点において、私たちに誤った印象を与える恐れがある。すなわち、脳の中に、「こびと」ないしは「ホムンクルス」がいて、ヴァーチャル・リアリティーによるショーを見ている、と考えるのは誤りである。
読了前に放り出してしまった茂木健一郎著『脳内現象』のテーマと重なる部分だ。
p380:もちろん、進化のタイムスケールでは、変化は必然的に、コンピュータよりはるかにゆっくりと生じる。その一つの理由としてhs、一つ一つの進歩は、死んでゆく個体と彼らを出し抜いて繁殖を続ける個体とのせめぎあいの中で、偶然起こるからである。
第12章『脳の中の風船』では、生体のメカニズムを最先端技術になぞらえるという意味でムーアの法則なんかが引き合いに出される。
p384:私が思うに、人間の脳の進化を考えるとき、われわれは何か爆発的なものを必要とする、それは、クモを擬態するハエではなくむしろ、原子爆弾の連鎖反応やフウチョウの尾の進化に似た、自己増殖的なものである。
コンピュータの場合マウスというハードウェアの進歩によりGUIソフトが"爆発的"に登場した。人間の場合GUIに相当するひとつは言語であり、脳というハードウェアに自己増殖的螺旋上昇(スパイラル)を進行させたとドーキンスは言う。そして言語は「オープンエンド」であると。また、地図読解能力や投擲能力、ミームも人間の脳を巨大化させるのに役立ったと。
p408:どのようにして始まろうと、そして、言語の進化における役割が何であろうと、われわれ人類は動物種の中で唯一、ある事物が他の事物と類似していることに気づき、その関係を自らの思考や感覚の支点として用いる、比喩という詩人の才能を有しているのである。これは、想像力という才能の一側面である。おそらく、これこそがわれわれの共振的上昇(スパイラル)を引き起こした、鍵となるソフトウァの革新であったのであろう。

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2006年11月15日

ネオンと絵具箱 / 大竹 伸朗

ネオンと絵具箱ネオンと絵具箱
大竹 伸朗

月曜社 2006-10
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今をときめく大竹伸朗氏の、割と最近のエッセイを集めたもの。東京都現代美術館での全景展に感動して、今大竹氏にはまっている。都内の関連展はもちろん直島でやっている企画展にも行くつもり。 「魅了」するアーティストの文章だ、面白くないはずがない。何日か持ち歩き通勤電車の中で読み切ったが、文章に没入した途端だらしなくにやけてしまう。主に音楽誌に掲載されたエッセイなので、時に歌うようにシャウトするように流れて行く文体が素敵。夢をどのように考えているかとか、宇和島での生活ぶりとか、音楽との関わりとか。森山大道氏と仕事した時の様子とか、ラッセル・ミルズやデヴィッド・シルヴィアン(昔好きだった)との関係とか、Juke19の遠山俊明さんとの出会いとか。興味津々。何より「全景」展の準備の様子やいくつかの出品作を作った当時の心境などもぽつぽつと語られているので、今度「全景」展を観に行く時は思い入れが強くなって長くなってしまいそうだ。

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2006年11月 9日

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ / 千住 博

ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ
千住 博

朝日新聞社 2006-10
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朝日新聞の読者からの質問に答えるという形で、日本画家千住博氏が芸術について語る。その絵画作品を観たことこそないものの、『千住博の美術の授業 絵を描く悦び』『ニューヨーク美術案内』ですでに執筆家としての千住氏のファンである私にとって、甘く芳しい一冊。ひとえに彼の芸術に対する情熱が、そのストイックな姿勢が、私を魅惑してやまない。「好きこそものの上手なれ」のお手本。美術に対する興味を一層かき立ててくれる。

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2006年11月 8日

忘れられた日本人 / 宮本 常一

忘れられた日本人忘れられた日本人
宮本 常一

岩波書店 1984-01
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民俗学の本。著者は日本各地を訪れ古文書を掘り起こし老人達の話をひたすら聞き、伝承された歴史や生活の知恵を平易な文章で記録していく。単調な日々を送る辛抱強く貧しい人々が、実は複雑な規律を造り細やかに社会を構築していたという事実。清々しく、意外と読み進めるにあたって気が逸る良書だ。

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2006年11月 3日

本当の戦争の話をしよう / ティム・オブライエン

本当の戦争の話をしよう本当の戦争の話をしよう
ティム・オブライエン 村上 春樹 Tim O'Brien

文藝春秋 1998-02
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戦争の話とはベトナム戦争。短編集の形を取っているが、物語の真ん中に常に主人公としての作者の眼があるため、ドキュメンタリー、あるいはエッセイ集のような趣きがある。エンドレスで繰り返される戦争の風景、時に虚構が混じる。彼は戦争がどんなふうだったかを正確に伝えたいのではなく、戦争が人の心に何をもたらすのか、そして人の心を浸食する現実とはどんなものなのかを真摯に説明しようとしているようだ。淡々と生々しく、時にはユーモラスに語られる戦争の姿はそれでもまだ捉えどころがない。評判は良いし面白い文章だと思うけど、私的にはときめきを感じない本だった。(訳者の)ハルキ氏とは相性が良くないのかもしれない。

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2006年10月24日

決断力 / 羽生 善治

決断力決断力
羽生 善治

角川書店 2005-07
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有無を言わさぬ啓蒙の書。棋士は勝負師、切れの良い文章だ。強くあり続けるノウハウは、やはりただ読んでも身に付かないと思うけど、自分が生きる上でのヒントにはなる。一種のフロー体験の話。

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2006年10月23日

ハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるか / 石井 茂

ハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるかハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるか
石井 茂

日経BP社 2005-12-28
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量子力学の歴史を紐解いた本、と解釈している。亜流だったこの分野を構築し発展させて行った偉大な物理学者達の軌跡や、物理学と数学の関わり、第二次大戦下の原爆の開発競争など興味深かった。ただしSF好きな故に手に取った私には図や数式は非常に難解だった。どうやら本当の主役は「小澤の不等式」を導いた日本人物理学者の小澤正直氏らしいが、登場が遅く影が薄め。「シュレディンガーの猫」の解説はわかりやすかった(やっとなんとなく理解できた、うれしい)。量子力学から量子情報研究が派生した旨、ネット愛好者として感嘆。量子コンピュータって?一種の歴史書とは言えきちんと現代に関わってくる。

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2006年10月18日

嘘つきアーニャの真っ赤な真実/ 米原 万里

嘘つきアーニャの真っ赤な真実嘘つきアーニャの真っ赤な真実
米原 万里

角川書店 2004-06
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1960年プラハ。マリ(著者)はソビエト学校で個性的な友達と先生に囲まれ刺激的な毎日を過ごしていた。30年後、東欧の激動で音信の途絶えた3人の親友を捜し当てたマリは、少女時代には知り得なかった真実に出会う!
と言ってもそんな衝撃的な話が暴露されるわけではなく、歴史認識をしっかり持った大人になってから時代を振り返って、当時見えなかったものが見えてくるといういい話。しかし幼なじみ達を見つけ出した著者の行動力はすごい。特殊な経歴を持つ方だが、彼女の優れた感性がなければこういう踏み込んだ東欧史的エッセイは書けないと思った。

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2006年10月17日

フェルマーの最終定理 / サイモン・シン

フェルマーの最終定理フェルマーの最終定理
サイモン シン Simon Singh 青木 薫

新潮社 2006-05
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少し前に読んだ『放浪の天才数学者エルデシュ』でも数々の数論がわかりやすく紹介されていたが、こちらサイモン・シンの筆力は更に優れている。数学者の10%しか理解し得ないと言うフェルマーの最終定理の証明が構築される過程が、躍動的に語られている。素人目から見てもドラマティックだ。数学者という神に選ばれた人種(と私には思える)の生き方が面白い。一匹狼の道を選んだワイルズが「世紀の発表」後窮地に陥った時の、周囲の温かさが印象的だった。

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2006年10月 9日

利己的な遺伝子 / リチャード・ドーキンス

利己的な遺伝子 <増補新装版>利己的な遺伝子 <増補新装版>
リチャード・ドーキンス 日高 敏隆 岸 由二

紀伊國屋書店 2006-05-01
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最近進化心理学の本を面白く読んだため、「これを読まなければ私は前に進めない」と妙な思い込みを持って挑んだ進化理論の名著。初刷30年目記念の増補版で、補注も膨大。とても手強かった。ドーキンスは動物行動学者なので、大変に興味深い種々生物の行動パターンが事例としてたくさん挙げられている。主張の中心は生物は遺伝子のヴィークルに過ぎないという説だが、私の印象では、人間はひねくれているので必ずしも遺伝子の思い通りになっていない気がする。だから、この本が世間に与えた衝撃は大きいと聞くが、そんなに真に受ける必要はないんじゃないかと思った。興味深く読んだのは「ミーム」の11章。遺伝子と同じく自己複製子で、それは神罰とかの概念であってそのインパクトの強さ故に継承されていき文化を創るという説。想像力を刺激する。 松岡正剛先生のレビューを発見。素晴らしい。

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2006年9月18日

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する / 佐々木 俊尚

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する  文春新書 (501)グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)
佐々木 俊尚

文藝春秋 2006-04
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ベストセラーになってからだいぶ経つが、今更ながら読んでみて良かった。思ったより古さを感じなかった。刊行当初に読んでいたらかなり斬新に感じただろう。梅田氏の『ウェブ進化論』のように楽観主義的(ポジティブな)ベールで包む事なく、Googleを「破壊者」と名指しすることでそのパワーを鮮明に描き出す。私は常々「強い人間こそ楽観的でいられる」と思っているのでオプティミズム賛成派だが、佐々木氏のようにグレーな部分も遠慮なく強調してその将来性に不安を抱かせるやや攻撃的な姿勢も、悪くないと思う。強さと柔軟性を失ったらGoogleだって脱落して当然。Gアカウントには散々お世話になっているので、末永く化け物でい続けて欲しいけど。

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2006年9月13日

喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 / ニコラス・ハンフリー

喪失と獲得―進化心理学から見た心と体喪失と獲得―進化心理学から見た心と体
ニコラス ハンフリー Nicholas Humphrey 垂水 雄二

紀伊國屋書店 2004-10
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進化心理学者の論考的エッセイを流れに沿ってまとめた本。良書だ。 第一部「私のなかの<私>」 赤ん坊の心を例に挙げて「自己」の単一性を説明。例:オーケストラ奏者は各個人ばらばらにも関わらず、演奏という統一プロジェクトに帰属して行く。反例として多重人格障害を挙げ、自己の単一性を正当なものとする。更に「心」と「脳」の同一性を検証していくが、この辺は難解。感覚は能動的な作用。 第二部「喪失と獲得」 ふつうに面白い。自閉症児の言語能力=認知能力の欠落が写真的な記憶力を呼び覚ます。三万年前の洞窟絵画然り。彼らの言語機能は極端に限られていた!?大胆な仮説。進化における「喪失・後退」の有効性。プラシーボ効果の驚異、人間の「健康管理システム」(コスト計算により免疫機能をコントロールする)。 第三部「信じる心」 大胆にもキリストを自称霊能者の代表と定義して、その欺瞞を指摘し超心理学を否定する。動物裁判(そんなものがあったことすら知らなかった!)の意義は近代科学以前の人間の本能的な「怖れ」を緩和すること。子供に対する宗教教育の徹底的な糾弾。科学こそ子供に必要。 第四部「憎しみと愛の形」 面白かったのは、『彼らに何かをしたことによって憎む』。何かされたからじゃなくて、やっちゃったら憎くなるのだ。逆も成立。同情から「何かしてあげた」相手に好意を持ってしまう。十分納得できる論調。自然人と人為人。利他的行動は自分の為。 ざっと読んだので消化不良だが、示唆に富んでいた。すぐは無理だけど再読、もしくは著者の他作を読んでみたい。

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2006年9月 7日

放浪の天才数学者エルデシュ / ポール・ホフマン

放浪の天才数学者エルデシュ放浪の天才数学者エルデシュ
ポール ホフマン Paul Hoffman 平石 律子

草思社 2000-03
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愛情あふれる伝記。エルデシュが亡くなったくだりでは本当に寂しい思いをした。著者の敬意溢れる眼差しは、天才の奇癖すら温かく包む。他の一流数学者たちのエピソードも興味深く、同時に数々の有名な問題を紹介することで「数学入門」的役割を果たす本。素数の魅力.....。あ、エイミー・ベンダー『私自身の見えない徴』のことも思い出した。

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2006年8月30日

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する / スティーヴン・レヴィット スティーヴン・ダブナー 望月 衛

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検するヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
スティーヴン・レヴィット スティーヴン・ダブナー 望月 衛

東洋経済新報社 2006-04-28
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読み始めてすぐ、日本語訳のくだけた口調が気になった。タイトルも受け狙いな感じだし。面白さっていうのは自分で見出すから面白いのであって、あからさまに「経済学の本とは思えないでしょ」と馴れ馴れしく語りかけられる感じはちょっと引く。でも訳者の略歴を見ると真面目に経済畑を歩まれて来た方のようだし、ライターのダブナー氏がこういう文体を選んだのでしょうね。..と文句を言いつつ、中盤からは乗った。経済学は非常に優れた証明手法を持つ学問だ。スキルの整った地盤があるからこそ、レヴィッド氏のような人が独創性を発揮できるのか。

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2006年8月22日

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 / 梅田 望夫

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土
梅田 望夫

筑摩書房 2006-08-10
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フォーサイトの連載をまとめた単行本(2001)が文庫化されたもので、本文はそのままに(きめ細かな注釈はある)60枚の後書きが増補されている。はじめて読んだが、瑞々しい。私は元々文筆家としての梅田さんファンであり、たまたま舞台がシリコンバレーであり関心の対象がIT企業である、ふつうのエッセイ集として読んでしまったような気がする。ただし各編「徒然と」語られた感じではなく、非常に小気味良い。あとがき中の
本書は「限られた情報と限られた能力で、限られた時間内に拙いながらも何かを判断しつづけ、その判断基準に基づいて」書いたものの集積だ。
というくだりを読んで、納得した。梅田さんは自分の判断に曖昧さを許さず、それに基づいてリスクを背負いながら行動して来られた。その過程を公開した上で、誰よりも自分が一番厳しい評価者となる鍛錬をずっと続けて来られたわけで。その潔さが文章に凛と現れているように思う。

読後続けて『ウェブ進化論』を再読した。「書き下ろし」の醍醐味、長い文章の論理性と統一性に胸が躍った。そしてやはり、体臭を感じない梅田氏の簡潔でリズミカルな文章に酔った。推敲が巧いのか、頭の中で推敲しながら書いていらっしゃるのか。IT業界の潮流が頭に叩き込まれた感じ。

本当の大変化はこれから始まる

てところがミソだと思う。
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まるウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田 望夫

筑摩書房 2006-02-07
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2006年8月 2日

歴史とは何か / E.H. カー

歴史とは何か歴史とは何か
E.H. カー E.H. Carr 清水 幾太郎

岩波書店 1962-03
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1962年出版とかなり古い。おそらくどこかのブロガーさんが推薦されていたので自分のウィッシュリストに入れたのだと思うが、知らないうちに手元にあった。訳と相性が悪いのか言及される学者達をほとんど知らない無知さが響いたのか、カー氏のひとことひとことに頷きながらも全体の流れはさっぱり掴めなかった。しばらく風邪をひいていて薬を飲んでいたせいか。歴史とは解釈だから、歴史を研究するなら歴史家のバックボーンを知るべし。こういう見解の持ち方はあらゆる学問に通じるものではないかな。なんか哲学を感じた。歴史は完成しない。常に未来へ続き、未来と共に歴史も変わり続ける、終わりはない。うーんあえてゴールを永久に届かないところに設定するポジティブさが好きだ。

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2006年7月19日

フロー体験 喜びの現象学 / M. チクセントミハイ

フロー体験 喜びの現象学フロー体験 喜びの現象学
M. チクセントミハイ Mihaly Csikszentmihalyi 今村 浩明

世界思想社 1996-08
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良書。読み始めから最後まで、非常に影響を受けた。はてなダイアラーichiyuさんの言及がきっかけで購入したが、正直自己啓発書の類いだと思っていた。つまりそういう本を自ら求めていたのだ。「序」の部分で著者が専門家として真摯な態度でこの本を執筆したことを見て取り、真剣に読んだ。幸福の定義、人間の心の動き方、意識統制を達成するスキル、自己満足への警鐘、など。データを伴う論証であり、異論はない。むしろこういう知識を与えられた自分がこれからどのような選択をしていくのか、大きな課題を背負うことになってしまった。第10章の帰結が良かった。結局フローの最終段階においては統合化により宇宙に融合してしまうのだ。うーんわかるようなわからないような...。また考えてしまう。

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2006年7月 9日

心は孤独な数学者 / 藤原 正彦

心は孤独な数学者心は孤独な数学者
藤原 正彦

新潮社 2000-12
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『国家の品格』ではじめてその文章に触れたけど、藤原正彦氏は素晴らしい著述者だ。ただ文章が巧いのではなく、博識で文学的素養もあり(詩人丸山薫なんて私は知らない)、その感性が素晴らしいのだ。彼が数学者であるという事もまた芸術的だ。この本は3人の天才数学者の評伝だが、実際所縁の地を訪れた上で天才の心に思いを馳せていて、紀行文として楽しんだ。すごい行動力

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2006年6月 7日

驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる! / A・J・ジェイコブズ

驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!
A・J・ジェイコブズ 黒原 敏行

文藝春秋 2005-08-03
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原題は「The Know-It-All」だ。なんでこれが「驚異の百科事典男」になるのかわからないが、実際この邦題につられて私はこの本を買ったのであながち間違いとも言えない。『ブリタニカ百科事典』を読破したエスクゥワイヤ誌編集者ジェイコブズ氏のドキュメンタリー。職業柄文体は軽妙なのでとても読みやすい。ブリタニカから得たトリビアにからめて私生活をばんばん切り売りしているので(本当なのかわからないけど)、とっても面白い。が、無闇に厚いので読破に一週間かかった。それだけの時間に値する本なのか、は疑問。だって私の頭の中にこんこんと尽きる事なく湧き出る知識の泉が生まれたわけじゃないから

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2006年5月29日

国家の品格 / 藤原 正彦

国家の品格国家の品格
藤原 正彦

新潮社 2005-11
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さすがベストセラーね。唸る要素がいっぱいだった。やっぱり数学者っていうのは非常に優れたセンスを持っているものだ。学生の内に名作を読むべしって、ホント言えてる。『海辺のカフカ』じゃないけど、15歳がひとつのターニングポイントかな。そしてこの年齢を過ぎても読書を続けていった人は、人間の芯が厚くなるような気がする。私は挫折したけど。...脱線したが、それだけ色々考えさせてくれた。日本人は「情緒」を大切に!

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2006年5月28日

ナイン・インタビューズ / 柴田元幸

ナイン・インタビューズナイン・インタビューズ
ポール・オースター 村上春樹 カズオ・イシグロ

アルク 2004-03-26
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柴田センセイが素晴らしい作家達を訪問インタビュー。「翻訳者は一種の読者」という発言もあり、結構主観的な話の進め方をしているような気がした。リチャード・パワーズの項が一番面白かった。『「本を読む」という行為は双方向的なプロセス』であるという捉え方、すごくいい。前から感じていたけど、良い小説を読んでいると、その世界に没頭しつつ自分自身の深いところに降りて行けるような気がする。多分パワーズの小説(未読)はそれができる作品だ。 この本、インタビューを録音したCDが付いているし、ページの左側が原文・右側が日本語と手元に置いて何度も開きたくなる良い造りをしている

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2006年3月11日

高校数学でわかるシュレディンガー方程式 / 竹内 淳

高校数学でわかるシュレディンガー方程式高校数学でわかるシュレディンガー方程式
竹内 淳

講談社 2005-03-17
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数式は全く理解できなかったが、「量子力学とは何」「量子力学を作ったヒト達」「量子力学のリアルライフに対する影響」など具体的に理解できた。わかりやすい本というのは、良書だ。

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2006年2月18日

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる / 梅田 望夫

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まるウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田 望夫

筑摩書房 2006-02-07
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IT系人気ブロガー梅田氏の、この10年くらいのネット産業に関する総括。構成も文体も熟成された感じでとてもわかりやすい。みんなで良くなって行こうよという彼の熱意が溢れていると思います。面白くてあっという間に読み終えてしまった。

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2006年2月 1日

こころの情報学 / 西垣 通

こころの情報学こころの情報学
西垣 通

筑摩書房 1999-06
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ネットが好きでSFが好き、な私に豊かな示唆を与えてくれる本。「情報の洪水」の中で「いたずらに機械的なイメージ情報ばかり追い求めてオタクになっても空しいだけ」、「押しつけられる意味作用そのものを批判的にとらえなおしてみるのが近道」ですって。100%理解できている自信はありませんが、深い洞察が見事です。ちなみにこの著者、喩え話がとてもうまくて筆力にも感心いたしました。

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2005年12月 8日

ニューヨーク美術案内 / 千住 博 野地 秩嘉

ニューヨーク美術案内ニューヨーク美術案内
千住 博 野地 秩嘉

光文社 2005-10-14
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軽い読み物。千住博氏は「絵を描く悦び」という良書を読んでファンになりました。絵画に対する情熱に溢れる、素晴らしい方です。あとがきで「ヨーロッパ編、日本編、東南アジア編と続けましょう」とあって、本気で期待しています。

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2005年11月 8日

絵画の見かた / ケネス・クラーク

絵画の見かた絵画の見かた
ケネス・クラーク 高階 秀爾

白水社 2003-12-11
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国立西洋美術館のミュージアム・ショップで買った。今年ドレスデン美術館展を観に行った時だ。綺麗なものは大好きなのでたまに美術展にも行くが、教養がなくてどう観れば良いのかさっぱりわからない私。「自分の部屋に飾りたいか」という基準で見るので好きな色(青)が鮮やかだと評価を上げてしまう。もっと考えろ!ということで参考にさせて頂いた。
玄人さんが絵を見る時の視線と思考を実況してくれるこの本は、とっても教養的だ。焦点の合わせ方(まず全体の印象をつかんでから細部を検討する)はポール・オースター「ムーン・パレス」のトマス・エフィング老の美術指南に似ていて、なるほどぉと思った。また、画家の生涯など歴史や背景を把握していると名画に対する理解が深まるんだなあと、当たり前のことながら感心してしまった。
明日プーシキン美術館展に行く予定なので急いで読んだのだが、肝心の作品たちについて予習する時間がない!

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2005年11月 4日

経済学をめぐる巨匠たち / 小室 直樹

経済学をめぐる巨匠たち経済学をめぐる巨匠たち
小室 直樹

ダイヤモンド社 2003-12-19
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経済学の歴史を紐解いた本だが、私は社会科学の入門書として読んでしまった。なにしろ職業訓練所みたいな大学に行ったため、政治学・法律学・社会学・心理学にいたるまで社会科学の素養が全然ないので。自分がどんな社会で生きているのか、考えたこともなかった。ということを気付かせてくれた。
資本主義という言葉が新鮮。1.目的合理な精神、2.労働そのものを目的とし、救済の手段として尊重する精神、3.利子・利潤を倫理的に正当化する精神、が資本主義の精神なのだそうだ。これは私の仕事上のポリシーに合致するように思う。でも日本の資本主義は偽物で、官僚制が科挙を模倣したものになってしまったため日本の経済は奈落に向かっていると著者は言う。最近株価が上昇してきたけど、このへんどうなのだろう。
尊敬するブロガーさんの推薦図書だったので購入した。
 http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050609/p4
読んで良かった。ヴェーバーの訳本にも挑戦したい。

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2005年10月30日

唯幻論物語 / 岸田 秀

唯幻論物語唯幻論物語
岸田 秀

文藝春秋 2005-08-19
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好きなブロガーさんが奨めていたので読んでみた。共感した。精神分析をとことん実用されている。私も思春期の頃、自分の現実感覚に疑問を感じたしフロイドの本を闇雲に読んだ。当時は自我を探るためなんて自覚してなかったけど、今読めば得るところが大きいかもしれない(夢判断はパス)。唯幻論は理屈に合っているように思う。「人間は本能が壊れている」と言われても、根が楽観的なので「だから芸術が生まれるんだな」などと思い反感は感じなかった。

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