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チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 / 塩野 七生

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
塩野 七生

新潮社 1982-09
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大変恥ずかしいことに、私は塩野七生さんを読んでいない。「ローマ人の物語」くらいは、と思いつつ全15巻、その量に恐れをなしてしまって手を付けていない。全部読まなくても、面白そうなところだけ抜き出せばいいんだよとアドバイス頂いたこともあるが、怠け者であるのと、根が几帳面なのでそういうことができないのだ。

昭和45年刊行のこの本を今さら買ったのは、惣領冬実さんの「チェーザレ—破壊の創造者」の影響だ。コミックを買ったのは10数年ぶり?(自分でもわからないくらい久しぶり)。惣領さんはまだマンガファンだった頃好感を持っていた作家さんだが、美しい筆致を崩さず現役で活躍されていることに驚いた。彼女の描くチェーザレは自由闊達でクールで美しい青年。既刊ではまだお父さんが法王になっていないが、すでにマキャベリもダ・ヴィンチも登場している...。

と、本書になかなか話が進まないのにはわけがある。歴史物語というのは評が難しい。こっちに知識があれば「いや、その解釈は...」とか渡り合うことができるのかもしれないが、テキは史料を後ろ盾に慎重に話を進めてくる。史実のない時期は空白として言及しないし。素人としては「成る程成る程」と塩野さんのお話をうのみにするしかない。

「彼は、自らを語ることの極端に少ない男であった。」
「しかし、チェーザレの眼は、人々が狂喜してまとう緋の衣のはるか向うを見ていた。」
「まだ一傭兵隊長として働かねばならない自分を、チェーザレは、怒りを持って耐えいてた。」
「自分の時が来るのを待っていたチェーザレは、その時が来た今も、それが成熟するのを待つことを知っていた。」

時折挿入されるチェーザレの内面。塩野さんの押さえた筆致は、読む者に全く違和感を感じさせない。そして最後の戦場の場面...。

「その時である。忘れていたあの激しい頭痛が、再び彼を襲った。チェーザレは、鞍をにぎりしめて、気が遠くなりそうなその痛みを耐えようとした。敵味方双方のあげる叫びが、海鳴りのように、遠く近く馬上の彼を包んだ。それを聞きながら、彼は剣を抜き放った。次の一瞬、彼は馬腹を蹴っていた。」
「倒れたチェーザレの右手は、まだ剣をにぎりしめ、左手は、すでに動かない馬の手綱をしっかりと押さえていた。敵兵の一人が、彼の胄をはいだ。その時、右眼に刺さっていた矢が、軽い音をたてて折れた。胄の下から、蒼白な顔があらわれた。ひたいには、苦痛の深いしわがきざまれていた。右の眼は、血の中で形がなかった。左の眼だけが大きく見開かれていたが、その灰色の眼の光は、だんだんと小さくなり、やがてそれも消えた。」

うわー壮絶。ちょっと待って。史実にこれだけ詳しい記述があるわけない(頭痛とか)。これは塩野さんの創作?もちろんyes。そうなのだ、この物語はチェーザレ・ボルジアという男に魅せられた塩野さんが、歴史の中からすくい上げて見せた独自の英雄の姿。最期のシーンは、彼への鎮魂歌だ。ここに来てやっと自分がドキュメンタリーを読んでいたのではないことい気づいた私は間抜けかもしれない。でもそのくらい、迫真の歴史物語だった。

チェーザレ 1―破壊の創造者 (1) (KCデラックス)
惣領 冬実
4063722015