2008年6月 2日
ウェブ時代 5つの定理 / 梅田望夫 [ ノンフィクション ]
![]() | ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く! 梅田望夫 文藝春秋 2008-02-28 売り上げランキング : 221 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
執筆サバティカルに入っていらっしゃる梅田望夫さんの貴重な新著。2/27発売で、読んだのは3月に入ってから。あら、もう6月だわ。
CNET JAPAN「英語で読むITトレンド」の頃から梅田さんのネット上の文章を読んでいるので、出版された著作には既視感を覚えることが多かった。この本でも、随所に見覚えのある「人」や「言葉」が。そうそう、ゴードンさん。アンディ・グローブ。オライリー。もちろんジョブズ。エリック・シュミット。リーナス・トーバルズ。そして、ポール・グラハム!!《ハッカーと画家》はプログラムの素人にはわかりにくい部分も多々あったけど、本当にぎゅーっとハッカー(今で言うとギーク?)のスピリットが濃縮されていて、とんでもなく面白い本だった。梅田さんは私の世界を、どんどんと広げてくれた人なんだなあと思う。人生経験が増えたからなのか多少は勉強の効果が出たのか、今あらためてこれらの「定理」を読むと、瑞々しく穏やかな喜びを感じる。
しかしIT業界にも起業にもいわゆる普通の会社にも縁のない私にとって、梅田さんのサバイバル法は机上の空論ではないのか。否。仕事の面で、ひとつの指針になっている。小さな組織ながら私の上司は大変なやり手で、はたから見ると力技でものごとを押し切っているように見えて、着実な成長を実現している。細部を見ているし辛抱強いし、押すべきところではものすごい馬力で押し切る。設備投資が大きいので、部下としては高レベルのハードを使えるという役得を享受しているが、ついて行くのは大変。「君たちは遅すぎる」「成長を続けて行くには、そんなことできるわけない、というくらい大胆なアイデアがないとだめだ」といつもお尻を叩かれ、でもそれが無茶な要求ではないことを、私は梅田さんから学んだ。根がネガティブなので、オプティミストであることの強さ、みたいなことも教えられたし(これは本書に限らないが)。
かなり以前梅田さんに、システム手帳にサインを頂いたことがある。職場内限定で使っているのでこの手帳はさして傷むことなく今でも現役で、毎日のように「梅田望夫」というマジックの文字を見ながら、あーでもないこーでもないと気にかかるあれこれを書き留めている。ひとつの宝物ではあるが、一番貴重なのはやはり梅田さんの文章だ。出版物というのは鮮度は低いけれど、手元において繰り返し眺めるにはとても良い形態。特にこの本は、各々を「定理」としてまとめているのでバラ読みがしやすくて便利。毎度ただ感心して読むのではなくて、こうして金言を集めてこられた梅田さんの勉強法を、鑑にしたいなあと思う。
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2008年5月 5日
雪 / オルハン・パムク [ 海外文学 ]
![]() | 雪 オルハン・パムク 和久井 路子 藤原書店 2006-03 売り上げランキング : 16590 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
読んだのは2月の寒い頃ですが。雪の季節に読まなきゃなあと思って。実際今年は雪が多かった・・・。
前作「私の名は紅(あか)」は去年の秋に読んだ。オルハン・パムクが2006年ノーベル文学賞を受賞したせいで話題になったのは「雪」の方なのだけど、装丁の華やかさと細密画師の話であるという点に惹かれてこちらを先に買った。濃密でロマンティックな小説で、細密画自体好きなのでその世界に触れることに喜びを感じながら読んだ。展開が気になってするすると読めてしまう本。恋愛とミステリが絡まり合っているため緊迫感を保ちつつ、たっぷりと芸術に対する畏れが語られる。素晴らしい技法だった。
この「雪」は作家自らが政治小説と呼び、9.11直後に出版されたことで世界的なベストセラーになったそうだが、ではイスラムについて知識や関心がないと面白くないのかと言うと全然そんなことはない。パムクの巧妙さだ。冒頭、主人公Kaはカルスという貧しい地方都市に向かうバスに乗っている。道が見えなくなるほど激しく降る雪の中で、彼は無邪気に雪を見つめる。静寂を楽しみ、清められた世界にときめきすら感じている。そう、彼は政治亡命者ではあるけれど政治に深く関わったことはなく、「孤独を愛すはにかみや」の詩人なのだ。私たちは彼の感じやすい心に共鳴しながら、知らないうちにトルコの主義主張の異なる人々の衝突に「巻き込まれて」行く。
学生時代の友人である美しいイベッキが離婚したと聞いて、彼女を手に入れるべく下心を持ってカルスに向かったKaは、新聞記者と名乗った手前様々な人にインタビューして回るが、心は詩人だ。と言うより、無神論者であり日和見主義者でもある。人々の話に深くうなずき時に涙しながらも、決して同調はしない。できれば彼の孤独は癒されたのだろうけど...。文化人であり富裕層出身のため丁重に扱われるが、電話は盗聴されるし警察の尾行が付いている。この小説を読む私も、立場はKaと同じだと思った。Kaの目を通してこそ、イスラム社会を間近に客観的に見ることができる。
イスラム主義者、政教分離・西欧化主義者、軍のクーデター。人々は貧しく、テロリストは英雄扱いされる。少女たちは命をかけて髪を隠し(彼女たちの心情は「テヘランでロリータを読む」でなんとなく理解していた)、青年たちは自分が何をしているのかよくわかっていないまま命を落とす。貧しい民衆は煽動され易い。
カルスの街を深々と覆うのは雪、人々のやるせなさを包むのがKaの詩。雪も文学も普遍的なものであり、かつとてもはかない。詩が書けなくなっていたKaはカルスで次々に天啓を受けて次々に美しい詩を書いていくが、それらは1篇たりとも読者の目に触れない。美しいイベッキはKaと共にフランクフルトに行くことを了承するが、数年後Kaは孤独の内に死ぬ。雪が溶けたあとのカルスの街はとてもみすぼらしいだろう。政治・宗教・愛、いずれにも正解と言える道はなくて、永遠に平和なんて訪れないんじゃないかと思ってしまうのだが、そう言った信条みたいなものを追い求めるのが生きる情熱の源であり、そんな情熱を持たない人間は不幸せだとも思う。
読了後時間がたっているので距離を置いた感想になってしまったが、パムクの天才的な構成力と描写力(誤訳が多いようだが)により、今も瑞々しい切なさが残っている。カルスの風景が、絵画のように胸に焼き付いている。
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トウシューズはピンクだけ / レスリー・メイヤー [ ミステリ ]
- レスリー・メイヤー
- 東京創元社
- 924円
書評/ミステリ・サスペンス
「本が好き!」に登録しているので、申し込んで献本として頂いた。正直言ってあんまりそそられる本がないのでこのサイトには滅多にアクセスしないのだが、1年ほど前からバレエファンをやっているので、このラブリーな表紙に惹かれた。絶対バレリーナが出てくると思って。帯に「主婦探偵シリーズ」とあるのでシリーズものらしい。今回主人公は3人目の子供を妊娠している。
舞台はティンカーズコーヴというアメリカはメイン州の田舎町(架空の)。引退したバレリーナである老婦人の失踪から話は始まり、金物店の業突く張り店主の変死でストーリーが事件性を帯びる。ただしこの殺人事件には謎解きの面白さはない。いかにも怪しい孫息子に確固としたアリバイがあるので、逮捕された主人公の友人以外動機を持つ人間が見当たらず、あらどうするのかなーと思っている内に、先の老婦人の事件に焦点が移る。事件と言っても老婦人は自発的に失踪したのであって、、、。ああ、これでは完全にネタばれですね。家庭内暴力が絡んでくるのだが、あとは内緒。
でもこの小説の面白さは陳腐な筋立てにあるのではなく、主人公の食べっぷり(あとでわかるのだが彼女は双子を妊娠していたので、無理はない)とかバレエの発表会における少女たちの愛らしさとか(私も姪のバレエの発表会に何度か行っているので、痛いほどわかる)、あとは田舎町ののどかさとかかな〜。殺された店主の葬儀のあとの「お清め」パーティーが妙に豪華だったりして、おかしい。アメリカ的と言うとアレだけど、ラストで暴力的なシーンが出てくる以外は(ミステリなんだからこれは仕方ないでしょう)、とにかく最後まで楽しくするっと読めるお手軽本だ。疲れている時にお勧め(?)。
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2008年2月25日
いつか王子駅で / 堀江 敏幸 [ 日本文学 ]
![]() | いつか王子駅で (新潮文庫) 堀江 敏幸 新潮社 2006-08 売り上げランキング : 44941 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「河岸忘日抄」で思いっきり魅了された堀江敏幸さんの、長編第一作。「河岸...」では主人公がクレープを焼く名人で、料理のできる男性に憧れる私はそれだけでうっとりとしながら、さらに訥々と語られる文学の蘊蓄に胸を震わせて、喜びを噛みしめながら読んだものだ。今回の主人公は、古米にはこだわるけれどちょくちょく小料理屋で食事を済ませるような、翻訳やもの書きの傍ら生活のため時間給講師をやったりする古書好きの男で、NTTも直しに来てくれないような黒電話に愛着を持って、リサイクルショップで買った3,000円の自転車で遠出したりする、スローライフな人。↑この文章が長いのは堀江氏の真似。ひとつの文章が終わるまでにえらくたくさんの説明が出てきて、帰結まで腰を据えて待たなければならない。でも、そんな修飾の丁寧さが優しく感じられて心地よい、穏やかな文章を書く人だ。
冒頭に出てくる昇り龍の正吉さんは、カステラを残して消えてしまう。古書屋の筧さんはツケで本を売ってくれた。大家の米倉さんの娘の咲ちゃんは中学生で、亡くなったお母さんのかわりに夕ご飯を作る。カレーとが、旨い。小鍋で美味しいコーヒーをいれる小料理屋の女将さんは、教習所へ通っている。米倉さんの工場の旋盤工の林さんが書いた《旋盤ハ二刃ヨリ芳シ》という標語。主人公をとりまくのはこんな感じの人々だ。王子の下町の、素朴な生活。でもそれだけじゃない。「私」の脳裏には常に小説がある。東京モノレールを見てジャック・オーディベルティの『モノラーユ』を連想する(モノレールは出てこない)。島村利正の『残菊抄』は筧さんから購入、『暁雲』の夫婦の「ほのかな狼狽」を自分の生活に置き換えて、真面目に考え込む。咲ちゃんの宿題を手伝いながら安岡章太郎の『サアカスの馬』について考察する。渡し船と聞けば徳田秋声の『あらくれ』。主人公お島は堪え性がなくて、「待つ」ということができない。ここで待っても来ないものを待つことの度量の大きさに思いを馳せるのだから、この主人公はつくづく面白い。と言うか、彼の生活は極めて地味で平凡そうなのに、その内面は万華鏡のようだ。
堀江氏は仏文学者でもある。その文学に対する造詣は計り知れないが、小説を本当に愛していてついこぼれるように生活の中にそれらがオーバーラップしてしまう様は、大変に好ましい。そして同時に日常生活も愛おしむことのできる心のやわらかさも、魅力。
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2008年2月24日
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 / 塩野 七生 [ ノンフィクション ]
![]() | チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 塩野 七生 新潮社 1982-09 売り上げランキング : 23922 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大変恥ずかしいことに、私は塩野七生さんを読んでいない。「ローマ人の物語」くらいは、と思いつつ全15巻、その量に恐れをなしてしまって手を付けていない。全部読まなくても、面白そうなところだけ抜き出せばいいんだよとアドバイス頂いたこともあるが、怠け者であるのと、根が几帳面なのでそういうことができないのだ。
昭和45年刊行のこの本を今さら買ったのは、惣領冬実さんの「チェーザレ—破壊の創造者」の影響だ。コミックを買ったのは10数年ぶり?(自分でもわからないくらい久しぶり)。惣領さんはまだマンガファンだった頃好感を持っていた作家さんだが、美しい筆致を崩さず現役で活躍されていることに驚いた。彼女の描くチェーザレは自由闊達でクールで美しい青年。既刊ではまだお父さんが法王になっていないが、すでにマキャベリもダ・ヴィンチも登場している...。
と、本書になかなか話が進まないのにはわけがある。歴史物語というのは評が難しい。こっちに知識があれば「いや、その解釈は...」とか渡り合うことができるのかもしれないが、テキは史料を後ろ盾に慎重に話を進めてくる。史実のない時期は空白として言及しないし。素人としては「成る程成る程」と塩野さんのお話をうのみにするしかない。
「彼は、自らを語ることの極端に少ない男であった。」
「しかし、チェーザレの眼は、人々が狂喜してまとう緋の衣のはるか向うを見ていた。」
「まだ一傭兵隊長として働かねばならない自分を、チェーザレは、怒りを持って耐えいてた。」
「自分の時が来るのを待っていたチェーザレは、その時が来た今も、それが成熟するのを待つことを知っていた。」
時折挿入されるチェーザレの内面。塩野さんの押さえた筆致は、読む者に全く違和感を感じさせない。そして最後の戦場の場面...。
「その時である。忘れていたあの激しい頭痛が、再び彼を襲った。チェーザレは、鞍をにぎりしめて、気が遠くなりそうなその痛みを耐えようとした。敵味方双方のあげる叫びが、海鳴りのように、遠く近く馬上の彼を包んだ。それを聞きながら、彼は剣を抜き放った。次の一瞬、彼は馬腹を蹴っていた。」
「倒れたチェーザレの右手は、まだ剣をにぎりしめ、左手は、すでに動かない馬の手綱をしっかりと押さえていた。敵兵の一人が、彼の胄をはいだ。その時、右眼に刺さっていた矢が、軽い音をたてて折れた。胄の下から、蒼白な顔があらわれた。ひたいには、苦痛の深いしわがきざまれていた。右の眼は、血の中で形がなかった。左の眼だけが大きく見開かれていたが、その灰色の眼の光は、だんだんと小さくなり、やがてそれも消えた。」
うわー壮絶。ちょっと待って。史実にこれだけ詳しい記述があるわけない(頭痛とか)。これは塩野さんの創作?もちろんyes。そうなのだ、この物語はチェーザレ・ボルジアという男に魅せられた塩野さんが、歴史の中からすくい上げて見せた独自の英雄の姿。最期のシーンは、彼への鎮魂歌だ。ここに来てやっと自分がドキュメンタリーを読んでいたのではないことい気づいた私は間抜けかもしれない。でもそのくらい、迫真の歴史物語だった。
チェーザレ 1―破壊の創造者 (1) (KCデラックス)
惣領 冬実 
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2008年2月17日
サウンドトラック / 古川 日出男 [ 日本文学 ]
![]() | サウンドトラック〈上〉 (集英社文庫) 古川 日出男 集英社 2006-09 売り上げランキング : 151608 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | サウンドトラック〈下〉 (集英社文庫) 古川 日出男 集英社 2006-09 売り上げランキング : 75814 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「LOVE」「ベルカ、吠えないのか?」のあと、古川日出男氏の初期の作品をゆっくりと読み進めている。2003年出版の今作は青春小説と謳われているが、甘さ切なさは感じない。登場人物はみんなすごーく信念があって、自分の信じるまま迷うことなく前に進んで行く。「沈黙」「アビシニアン」 の謎めいたモチーフ(遺されたレコードとか)がところどころに見られるが、彼らがポジティブなので、それらの存在感は弱い。以下ネタばれ。
トウタは6歳で父親と一緒に乗っていたクルーザーが遭難し、ひとり小笠原諸島の無人島に漂着する。マッチョな父親にサバイバルを仕込まれていたので生き延びる。4歳半のヒツジコは無理心中をはかった母親と共に客船から海に飛び込むが、偶然救命ボートに落ちてトウタの島に漂着する。ヒツジコを守りながら成長するトウタ。野生のヤギが棲む島で。ある日地震が起きる。ヒツジコは突然の身体の浮遊感覚に呑まれる。トウタは安全なシェルターを見つける。シェルターの中で焚き火を起こす。焚き火の影(=映像)を見ながら、ヒツジコは地震の時の感覚を再現しようとして舞い始める。
ここまでたったの35ページ、怒濤の展開だ。このあとヤギの駆除のために無人島に訪れた捕獲要員がふたりを発見し、兄妹とみなされたふたりは父島で養父母を得る。トウタは野生を磨き、ヒツジコは衝動のまま自己流のダンスをつきつめていく。そうかこのままこの二人は一緒にほのぼのと成長して行くんだな〜と思っていると、それは甘い。ヒツジコは新しい養父母に引き取られて内地に行ってしまうのだ。ここまで129ページ。
この先は全く先が読めなかった。トウタとヒツジコは一切接触しない。ヒツジコが手紙を書くシーンはあるんだけど、発送しない。トウタも中学卒業後独立を促されて内地に行くのだけど、ヒツジコに連絡したりしない。レニというアラブ人少女が舞台に登場してきて、独自に動く。読者にとっては全くの混沌・・・。
トウタとヒツジコとレニの、三者三様の生き方が面白い。私はヒツジコの舞踏の衝動に強く惹かれた。舞踊譜を読みバレエの基礎を学んで自在に踊れるようになったヒツジコは、見た者の意識を操作してしまうようなダンスを始める。バレエやダンスを愛する者にとって、ヒツジコはミューズだ。折しも東京はヒートアイランド現象が高じて熱帯性の伝染病が流行り混乱の極み。ヒツジコはジャンヌ・ダルクの様に、レニとトウタはゲリラ的にトウキョウで生き延びていく。最後に邂逅する3人は救世主として生きて行くのだろうか..。
古川日出男氏の冴え渡った筆が読者の干渉を許さない、そんな気の強い小説。切なさがない点で読んでいて安心感があり、同時に余韻は少ない。これが現代の小説の潮流なのかなあと、割と納得して本を閉じた。湿っぽいのは嫌いだから。
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2008年1月27日
ナノフューチャー―21世紀の産業革命 / J.ストーズ・ホール [ ノンフィクション ]
![]() | ナノフューチャー―21世紀の産業革命 J.ストーズ・ホール 斉藤 隆央 紀伊國屋書店 2007-03 売り上げランキング : 291789 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
書店の店頭で見かけて「これは面白そう!」と思って買ったのだが、本当に面白かった。以前読んだ「基礎からわかるナノテクノロジー」(感想)よりずっと濃い内容で、ナノテクが作り出す未来をダイナミックにシミュレートしてくれる。Amazonのレビューを見るとちょっと論調が偏っている、みたいな意見もありなるほどと思わないでもなかったが、ホールの描く仮想未来にはかなり現実性を感じた。以前読んだ「基礎からわかるナノテクノロジー」で炭素を例に取りナノテク素材の有用性が説かれていて、
(以下続く)
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2007年12月31日
二〇〇二年のスロウ・ボート / 古川日出男 [ 日本文学 ]
![]() | 二〇〇二年のスロウ・ボート (文春文庫 (ふ25-1)) 古川 日出男 文芸春秋 2006-01 売り上げランキング : 125758 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
村上春樹氏の「中国行きのスロウ・ボート 」のリミックス(カヴァー?)とされているが、あまりに昔の短編小説なので本編の内容は忘れてしまった。古川氏は村上氏の大変なファンと聞いているから、それも申し訳ない話だけど。
古川氏のこれは、東京脱出の物語なんだけど、そう言っても何のことがわからないと思う。「僕」は挫折を繰り返してきた。女の子を好きになって、いい感じになり出すと女の子が突然遠くに行ってしまう。僕は必死で追いかける。でも何かに妨げられて決して東京を脱出することができない。喪失の物語だ。
3人目のガールフレンドのことは、特に強く愛していた。身をひくような形で彼女と別れた僕の青春は、これで終わり。今はソニー・ロリンズのOn A Slow Boat to Chinaを聴きながら、また東京の境界線に来ている。夢の島だ。コロシアムの観覧席に座って、夢想している。それでも逃げない、と決めた瞬間に僕は永遠の夢の中に取り込まれてしまう。
最初のガールフレンドの妹から、姉が亡くなったと手紙が届く。僕は中国行きのスロウ・ボートに密航した。
薄いんだけど説明するのがすごく難しい本で、さらっと読めるけどたまらなく切ない何かが残る。読む人によってフィルターを通ってくるモノが全然違うのではないか。村上春樹の小説にはなぜか万人が共感を抱くようだけど(私も)、古川日出男はちょっと癖があって、そこが好き。特にこういう短い話は、読むんじゃなくて聴く・感じればいいのだと思う。文体が独特で、ある意味わかりにくいし、でも変則的なリズムが心地よい。
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カラマーゾフの兄弟 (光文社古典新訳文庫) / ドストエフスキー [ 海外文学 ]
![]() | カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー 亀山 郁夫 光文社 2006-09-07 売り上げランキング : 116 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー 亀山 郁夫 光文社 2006-11-09 売り上げランキング : 164 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー 亀山 郁夫 光文社 2007-02-08 売り上げランキング : 198 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー 光文社 2007-07 売り上げランキング : 256 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー 亀山 郁夫 光文社 2007-07 売り上げランキング : 275 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界最高の小説を、異例のベストセラーとなった新訳で読む。
去年1987年版の「罪と罰」(新潮文庫)を読んだが(再読)特に読みにくさは感じなかったので、「カラマーゾフの兄弟」だって亀山郁夫さんの訳でなければ読めないということはないと思うのだ。でも「新訳が出たから」というきっかけでもないと、この長大な小説に挑戦する気になれなかっただろう。装丁がカワイイ。読書ガイドや前巻のあらすじなど載っているから、何だか安心して読み進められる。訳がいいだけじゃなくて、随所に工夫がある新訳本だ。最近書店に行ったら光文社古典新訳文庫のコーナーをチェックするようにしているが、雑誌じゃなくて本を買うような本屋で亀山「カラマーゾフ」を置いていないところはまずなくて、何だか安心している。ひとりでも多くの人に、この素晴らしい小説を読んでもらいたい。人間の叡智のほどを知りたければ、この本を見よ。ひとりの天才小説家がひとつの小宇宙を構築した。描かれる人間の魂はあまりに熱く激しい。翻弄された。
ドストエフスキーの小説は特に予備知識がなくても十分面白く読めるが、小説家の生涯を知っていると登場人物によりリアリティが感じられていい(第5巻に亀山先生の解説あり)。私は以前小林秀雄の「ドストエフスキイの生活」を読み、嫌気がさすくらい破天荒な放蕩ぶりにあきれてしまった。不快な言動で文壇の嫌われ者になるし不倫はするし借金のカタに小説を書くし。彼の小説の中の狂気が真に迫っているのは無理もないと思ってしまう。カラマーゾフ家の男達の特異さ、父フョードルの嫌らしさもミーチャの暴走もイワンの無神論者ぶりも、ドストエフスキーの分身として見れば自然とすら言えるキャラクターなのだ。では、純粋なアリョーシャは?いや、アリョーシャは純粋なのか?亀山先生の示唆によると彼の聖性は危険な資質でもあると...。この兄弟について語りだすとつい脱線してしまう。みんなすごい魅力的なのだ。
「カラマーゾフの兄弟」はドストエフスキーの遺作で(単行本の出版が1880年、ドストエフスキーは1881年没、享年59歳)、彼は更に壮大な続編を計画していたと言う。本編のあらすじはバラバラになっていたカラマーゾフの兄弟がそれぞれの思惑を持って父の家に集まり、一触即発の状態の中で遂に事件が起き、裁判が始まるというシンプルなもの。古典主義時代の交響曲の楽曲構成を意識したと言われる緻密で端正な全四部構成(+エピローグ)で、第1部は割とのほほんとした牧歌的なすべり出しではじまり、主要登場人物が次々と舞台に現れ伏線が張られて行く。第2部でもたいした事件は起きないが、脇役に至るまでキャラクターが生き生きと彩られていき、思想的にすごく濃いシーンが出てくる。影の薄かったイワンが熱く語り出す「大審問官」の物語。神の存在についての議論だ。ゾシマ長老は辞世に信仰の本質を語る。第3部は事件の連続、亀山氏はスケルツォの章と言う。ゾシマが亡くなってアリョーシャが変化し始める、グルーシェニカが昔の恋人のもとに走ってミーチャが狂う、フョードルは殺される。読んでいる方が遭難しそうになってくる大スペクタクルだ。ここまで来たらもう止まらない。第4部の裁判は圧巻で、最後の1頁を読んだ時には「え、これで終わり?」とつんのめってしまうような勢いがついていた。
ここまで結構長く書いたのだが、この小説の魅力を全然語れていないのでいやになる。「罪と罰」でもそうだけど、ドストエフスキーの宗教観は根源的で、キリスト教徒でなくても深くゆさぶられる。異常なまでに熱くなる登場人物たちは、抑制を振り払った自分の姿のように感じられる。エピローグのイリューシャの葬儀の章は、詩のように美しい。でも狂気が失踪し続けてきたようなこの物語自体が、崇高で美しく感じられるのはなぜだろう。
亀山氏がこちらをを出しておられるが、私は影響を受けやすいし臆病なので買うのをためらっている。
「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する (光文社新書 319)
亀山 郁夫 
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2007年11月18日
ウェブ時代をゆく / 梅田 望夫 [ ノンフィクション ]
![]() | ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687) 梅田 望夫 筑摩書房 2007-11-06 売り上げランキング : 7 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
内容としてはウェブによる世界の大きな変化をわかり易く辛抱強く説き、特に人生前半戦の人たちがどうすれば変化の波に乗って成功できるのか、真摯なアドバイスとして提示している。自分の起業時代の個人的な状況をかなり具体的に書いていらして、「うわー曝け出しているなあ」と思った。CNET Japanのブログの頃は「個人臭」を出さない文章を心がけていらしたように記憶しているが、今回は梅田さんのことを知らない読者に対しても説得力を持たせたいと、意識的にそうされたのだろう。
この本でも貫かれているオプティミズムは、「強くあれ」というメッセージだと思う。好きなことをとことんやって生きていくというのは一見甘い考えのようだが、全身全霊かけないでやった仕事が成功するものだろうか。好きだからこそ身を呈す、そこにかけるエネルギーは膨大なはずで、意思の強い人間でなければ走り切ることはできない。私の場合特に好きではないことを仕事に選んだが、いつの間にかとても「好き」なことに変わっていた。エキスパートになれなかったのは(多分これからもなれない)はじめが間違っていたせいかもしれないが、それでも「好き」が原動力になって向上心を失わないでいられる。
私が梅田さんの大ファンなのは彼の読書量による。ブログではたまにしか披露されないが、自宅に大きな書庫を持ち膨大な書籍を読んでおられる。本書では自分の読書を「生きるために水を飲むような読書」と表現されていて、それが面白かった。私は小説は快楽のために読むものだと思っていたから。梅田さんは小説もたくさん読まれているのだ。
ウェブによる生活の変化というのは強く感じている。とにかく今は個人が膨大なデータを安価に保持できるようになっていて、パソコンは単なるウェブの窓口、入力&出力デバイスに過ぎない。無料のGmailその他のwebサービスと安価なレンタルサーバを利用することによって、何でも「あちら側」に置くクセがついた。繋がるのは携帯やiPod touchでも十分だし。リアル世界でも、先日はじめて携帯用のミニSDを購入してその小ささと安さにびっくり仰天したものだ。何ていうか実に豊かな世界になったなあと、嘆息した。
まとまらない感想になったが、更に蛇足。その1。Googleは世界の中心になりつつある。いつかテロ組織がGoogleのデータセンターを狙うのではないかと、とても心配。その2。梅田さんは美術にも造詣が深いと見ている。そのうちアートに関する文章を書いてくださるのではと、期待している。
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2007年11月11日
チーム・バチスタの栄光 / 海堂 尊 [ ミステリ ]
![]() | チーム・バチスタの栄光 海堂 尊 宝島社 2006-01 売り上げランキング : 829 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
このエントリは10/31にアップする予定だったが忙しくて放置していた...。面白くて、あっと言う間に読んだのだけど。
06年度の第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞のヒット作。ということは露知らず(この賞自体知らなかった)、本屋で見かけても「チーム・・」ってレーシングチームのお話かしら?などど恥ずかしい見当違いをしてスルーしていた。医療ミステリなんですね。著者は現役の勤務医さんなんですね。バチスタ手術の名称も知らないとは、医療従事者失格の私。なぜこの本を手に取ったかと言えば、父親(半現役医師)に勧められたのだ。彼は趣味で小説など書いているせいか刺激を受けたらしく、「すごい才能だ...」と呟いていた。
読了してからだいぶ経つが、印象に残っているのは登場人物のキャラクター作りの巧さだろうか。ちょっと軽い文体と合わせて、赤川次郎を彷彿とさせる。えーと私が赤川次郎にのめりこんだのは1980年代、三毛猫ホームズシリーズがヒットした頃。ウィキペディア(Wikipedia)を見ると現在も新刊が刊行されているらしいが、私はもう20年くらい読んでいない。だがユーモラスな文体とは裏腹に、事件の解明と共に人間の醜い裏面をさらけ出してしまう残酷さがツボだった。この「チーム・バチスタ」にはまだそれほどの厳しさはないが、すでにシリーズ化されているそうだから展開が楽しみである。
「このミス」大賞受賞作家 海堂 尊のホームページ 宝島社
映画化が決定したとか。田口医師(男)を女医に変更して竹内結子、白鳥役は阿部寛が。ううむ。海堂氏は
映画には大胆なデフォルメを施されていますが、これは映画空間という中での選択肢なのだろうと理解しております。
などとおっしゃっている。
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2007年10月13日
アラビアの夜の種族〈1〉〜〈3〉/ 古川 日出男 [ 日本文学 ]
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『LOVE』から入った古川日出男さん、全作読破を決めているが読み始めると面白くて飛ばしてしまうので、ちびちびと楽しむようにしている。『ベルカ、吠えないのか』『沈黙/アビシニアン』『13』に続いて今回は文庫本3冊の大作。今まで読んだ中で最も娯楽性が高く、ぺろりと頂いた。古川氏の幻のデビュー作(未完なので)、ゲームのノベライズ『砂の王』は本作の原点らしい。ゲームねえ、やらないのでよく知らないけどなるほど勇者が出て来て修行したり怪物を倒したりするのはまさにゲームの世界かも。でも彼の「語り」は豪奢で奇想天外、ゲームやるよりよっぽど異世界に飛べると思う。
一方で「ブンガク」の観点から見ると。刺激はなかったなあ。優れた小説を読む時に感じる切なさ・胸苦しさ・覚醒感とは無縁。でも古川氏はあえて娯楽性を全面に押し出して読者を突き放したような気がする。単に好きだから、書きたかったから書いた。プロの作家として認められたから、自分のカラーを出した。そんな感じ。だからこの後に書かれた作品(次のステップ)が非常に楽しみ。出し惜しみしながら読んで行こうと思っているが、2008年には『聖家族』という壮大な作品が刊行されるらしいのでそれまでに読破してしまいたい、という気持ちもある。同時代の作家を好きになるとは、楽しいことだ。
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