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マリインスキー・バレエ「イワンと仔馬」12/9

東京文化会館でマリインスキー・バレエの公演「イワンと仔馬」を観た。うれしいことに日本初演作。1950年代に作曲家シチェドリンが愛妻プリセツカヤのために書いた作品を、ラトマンスキーが新演出。今回キーロフをはじめて生で見る私には、よい思い出になりそう。この日のテリョーシキナはロシアでの初演時のオリジナルキャストだ。彼女も未見。お顔立ちは好みでないが評判はとてもいい。

マリインスキー劇場はダンサー・バランシンのふるさと。ひいては彼の創作のルーツ?そんなふうに思うと、21世紀の今、新進振付家のラトマンスキーが群舞中心の音楽的なバレエをキーロフで創ったということが、面白く感じられる。そしてラトマンスキーはロシアからアメリカのカンパニーに移っていったわけで。水が高いところから低いところへ流れるように、バレエの歴史は動き続けているんだなと思う。プログラムの解説には、ラトマンスキーはバランシンの後を継ぐ、数少ない優れたシンフォニック・バレエの作り手とあった。先日のNYCBのBプロで見た彼の「コンチェルトDSCH」(音楽:ショスタコーヴィチ!)は、素敵だったなあ。

原作の「せむしの仔馬」はロシア人ならだれでも知っている有名な民話だそうだが、こっちはほとんど知らない。イワンと言えばトルストイの童話の方を思い出しますよね。なので事前にあらすじをじっくり読んでおいた。それがなかったら、雌馬が飛び込んで来たのが麦畑だなんて、わからなかっただろうな。美術や衣装はマレーヴィチの造型(正方形とか)や色彩を取り入れた、抽象的なものだし。去年のボリショイ公演の「明るい小川」と同様、ラトマンスキーのキャラクターは性格付けがくっきりしているから、彼らを見分けるのはたやすい。でも細かい話の流れを理解するのは無理。まあ主人公のイワンがどうやら天真爛漫なヤツみたいなので、我々もあんまり深く考えないでダンスを楽しめばよいのでしょう。

さて1幕。四角い赤いハコ(多分家なんだろうなあ)の前にイワン親子。手振り身振りが多くてちょっと説明っぽいけど、動きは速くてコミカル。この日は演奏がなんとマリインスキー管弦楽団だったので、音楽がシャープに聴こえた。ミニマムな演出でシチェドリンの曲とダンサーの動きを際立たせる手法は、洗練されている。衣装も、フォークロアっぽいけど差し模様が幾何学的でおしゃれだ〜。俄然盛り上がるのは馬たちが出てきてからですね。赤毛雌馬のコンダウーロワが、凛々しくてキュート。振り自体はたいしたことなくて、でも長身・美貌の彼女が手首を蹄のように曲げて馬のポーズを取ると、すごく魅力的に見える。リラの精では上半身の美しさばかりに目を奪われていたけど、今回は脚が長くて振り上げると迫力があるところが目についた。大きな馬2名の、裾広がりのパンタロンと水玉ブラウスが素敵。今回の衣装の中で一番気が利いていたんじゃないかな。たてがみ代わりの逆立てたカツラもそうだけど、ロシアっぽい垂れた口髭がマッチョ。そして仔馬!イリヤ・ペトロフが、むちゃくちゃ可愛い〜。ワガノワ・バレエ学校を卒業して入団したばかりで、この役に抜擢されたとか。わかる!小柄だけど溌剌とした動きで、舞台ですごく光っていた。お顔立ちも、よい。なんかマリインスキーの男子って垢抜けた容姿の人がいないなあと密かに思っていたので、彼はヒットだった。物語の進展に従ってイワンの影のように、もしくはイワンと王女と3人で絡み合いながら踊るシーンが多くなるのだけど、プリンシパルやファースト・ソリストと並んでも見劣りしないような華や、動きの良さがあった。正確だったし。背はこれ以上伸びないんでしょうかね・・・。

1幕は群舞の重なりが印象的だった。やっぱりキャスト表の上の人ほど巧いみたい。娘たちは綺麗どころが揃っていて文句なく良かった。美人で目立っていたのは、ヤナ・セーリナかな?緑色の帽子と衣装をつけた名無しの「人々」は動きが散漫な感じだったけど(そのかわりみんな若くてイケていた)、ジプシーは各人の振付けがリズミカルでユニーク。ああ、ラトマンスキーいいなあとogawamaさんはご満悦。ところがこれをぶち壊すのが侍従と王なのだ、あくまで私見だけど。それまでダンスで語ってきたストーリーを、妙にウマいマイムで引き継いでしまう。特にバイムラードフが、達者すぎ。「眠り」のカラボスは遅刻したせいでほとんど見られず、女と見まごう細腰のプリンシパル・キャラクターダンサーだなあとしか思っていなかったのだが、彼はすごい。よく変わる表情と大袈裟な身振りで侍従の役回りを的確に表し、なぜイワンが世界の果てや海底に行かなければならないのか、しっかり観客に教えてくれる。コミカルでちゃんと笑いも取っていたし、素晴らしい。素晴らし過ぎて彼の登場以後、バレエが変質してなんとなくミュージカルっぽく見えた・・・。

でも楽しかったからいいんだけど!2幕はどんどん盛り上がる。テリョーシキナ、綺麗。あんな美しい肢体を持ったダンサーは希有だ。演技力もあって、王様を手玉に取る小悪魔ぶりが可愛い。ロブーヒンはテリョーシキナほどオーラがないけど、元気で素直なイワンを好演していたと思う。ただ、最後のPDDでは踊りが素直すぎて面白みがなかった。サラファーノフだったらもっと派手なジャンプで会場を沸かせてくれるんだろうなと、思ってしまったもの。海底のシーンでは異形の海の住人たちが王女のコンダウーロワをリフトして現れて、ノイマイヤーの「人魚姫」みたいで面白かった。現代のファンタジーは、異世界の表現が共通しているのかな。バランシンの作品のような、心が音符に折りたままれていくような気持ちよさこそなかったけど、ラトマンスキーのバレエは十分に音楽が生きていて、最後まで晴れやかな気持ちで鑑賞することができた。王様が逝っちゃった後のバイムラードフの表情、傑作だったな。

≪出演≫
姫君 : ヴィクトリア・テリョーシキナ
イワン / 皇子 : ミハイル・ロブーヒン
仔馬 : イリヤ・ペトロフ
侍従 : イスロム・バイムラードフ
皇帝 : アンドレイ・イワーノフ
父親 : ロマン・スクリプキン
雌馬 / 海の女王 : エカテリーナ・コンダウーロワ
大きな馬たち : アンドレイ・エルマコフ/ カミーリ・ヤングラゾフ
ダニーロ : ソスラン・クラーエフ
ガヴリーロ : マクシム・ジュージン
娘たち : ヤナ・セーリナ/エカテリーナ・イワンニコワ/クセーニャ・ロマショワ/ヴァレーリヤ・マルトゥイニュク/エリザヴェータ・チェプラソワ/オリガ・ミーニナ
ジプシーたち : ラファエル・ムーシン/フョードル・ムラショーフ/カレン・ヨアンニシアン/エレーナ・バジェーノワ/アナスタシア・ペトゥシコーワ/ポリーナ・ラッサーディナ/リュー・チヨン/アリサ・ソコロワ

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