オーチャードホールでニューヨーク・シティ・バレエ2009Aプロ公演を観た。思いがけず感動の嵐だった私のNYCB祭り、最終回。そして楽日。個人的には存分に堪能したけど、観客全体の盛り上がりは最後まで今いちだった気がする。ふつうのバレエ公演に較べて男性客が多くて、本当に好き、という方が多いんだなと察したけど。最終日はスポンサーのシティバンクの招待客で賑わっていたのに関わらず、全体の反応は淡白だった。最後のカーテンコールでキラキラ花吹雪が舞ったけど、立ち上がる人はなく拍手も通り一遍。もうちょっと興行側で工夫して垂れ幕下ろすとか花束贈呈とか(いやどっちもクサい...)、何とか盛り上げられなかったのだろうか。
「セレナーデ」(振付:バランシン/音楽:チャイコフスキー Serenade for Strings)
CDでしっかり予習して「オー人事」のイメージを乗り越えて、臨みました(こういう名曲をCMで使うの、やめて欲しい)。なんと1935年(NYCB以前)初演の、あまりに美しい音楽とあまりに美しい衣装・照明・振付が融合した幻想的な作品。美の極致。元々はバレエ学校の生徒のために振り付けられたと言うのだから、なんて言うかバランシンの豊かな才能にびっくり。今年新国立の「Ballet the Chic」で見て結構感動した覚えがあるが、女性ダンサーがこける展開を知らなかったので、その辺から落ちこぼれたのだった。あの、脚が微妙に透ける水色の衣装が好きです。アシュレイ・ボーダーが光っていた。彼女はバランシンを知らない世代だしいわゆるバランシン・ダンサー的スタイルではないのだと思うが、NYCBのイメージをupするいいダンサーだと思う。踊ると、妖精みたい。
「アゴン」(振付:バランシン 音楽:ストラヴィンスキー)
ストラヴィンスキーの曲には白黒のレオタードって決まっているのだろうか。なんかはまり過ぎ。1957年初演。シンフォニーイン3より更にスリリングで内省的な音楽だが、バランシンは実に巧く、緻密に振り付けている。私はスペイン国立ダンスカンパニーのナチョ・ドゥアトが大好きで、彼は音楽ありきの振付家なので彼のダンサーはそのまんま音符に見える。一方バランシンの場合、彼のダンサーはまさに音楽の下僕(と言うと語弊があるが)。「チャイコフスキー・ピアノ・コンチェルト第2番」や「セレナーデ」を見て感じていた。ドゥアトはダンサーの人間性を音に上乗せするが、バランシンはダンサーの個性を没することにより純粋な音楽を抽出している感じがして、方向性は似ているのに微妙に異なる振付家の個性を美味しく味わった。
振付と曲とが同時進行で作られていったバランシンとストラヴィンスキーとの完全コラボレーションによる幸せな作品。プロットレス・バレエ(ストーリーのないバレエ)の最高傑作と言われることも多い。
実際見ないとわからないと思うけど、音楽とダンサーの動きのはまり具合が絶妙。すごくノリにくい音楽だと思うんだけど。「セレナーデ」が予定調和的美しさだったのに比して、こっちは未知の世界の鮮烈な美しさ。全く違う種類の「美」を目の当たりにして、すごく動揺しながら舞台を見守った。泣けた。なんでアブストラクト・バレエで涙腺を緩めるんだ自分、と思ったけど美しいんだから仕方ない。特にウェンディ・ウィーラン。彼女がこの演目に欠かせないダンサーであるという予備知識は持っていなかったのだが、彼女自身が私に知らしめてくれた。息をのむような、瞬きするのがもったいないようなPDDを経験。
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(振付:バランシン/音楽:チャイコフスキー)
古くからのバレファンの皆様には「セレナーデ」「アゴン」そしてこの「チャイコPDD」は見慣れた(もしかしたら見飽きた)演目かもしれないけど、私には十分新鮮。まだ決定版を見ていない感があるので興味深く鑑賞。楽しいプログラムですね。前の2本で異種の美の極致を堪能したあと、バレエらしいバレエを見れてすごくバランスが良かった。バランシンの振付けの多彩さにあらためて感心。この演目は1960年初演、結局これまで見たのはすべて私が生まれる前に創られたバレエで、それなのに古さは皆無で打ちのめされるような刺激と喜びを与えられたのだ。バランシンの偉大さ。あらためて思い知る。
「ウエスト・サイド・ストーリー組曲」 (振付:ロビンズ/音楽:バーンスタイン)
これはロビンズ。いや〜、本公演では装置の一切ないストイックな舞台にすっかり慣れてしまったので、はじめて出てきたスタイリッシュな大道具が目に楽しかった。いちいち幕をおろさずすすっと場面転換する技術はさすが。ほとんどNY(=ショービジネスの街)で興行しているカンパニーですもの、こういった完成度の高いミュージカル仕立てのバレエを持っておくのは賢い。ジーンズとか着ててもダンサーはカッコいい。常々世界でもっとも美しい人種はダンサーだと思ってきたけど、彼らはほんと歩いているだけで絵になるのだ。ミュージカル仕立てなので一応歌手も入っていたが、ダンサーもソロでも歌うので(多分アテレコ)面白かった。マイムとは違う、ダンスによる演技、ロビンスの振付けも素晴らしい。
NYCB、もっと観たい!来日をおとなしく待っていていいのか自分!と思っている。

コメント (2)
ぜひぜひNYに行っちゃって下さい!(笑)
ルグリのドキュメンタリーでも「音楽性」について語られていましたが、バランシン作品ほど音楽を体言化したものってないですよね。一見シンプルに見えるけど実は深い。だから色あせないんだよな~と今回つくづく思いました。
投稿者: noel | 2009年10月15日 07:24
日時: 2009年10月15日 07:24
>noelさん
今年前半はモスクワとサンクトペテルブルグ〜と思っていたのですが(忘れえぬロシアの影響)。
バランシンの振付けは本当に面白いです。
今までバレエ音楽にこだわりはなかったのですが、予習したら音と踊りの呼応が鮮やかに浮かび上がってきて、楽しく、ドキドキしながら鑑賞できました。
ダンサーもバランシンの遺産を真剣に守ろうとしている感じがして、好感度高かったです。
投稿者: ogawama | 2009年10月15日 21:44
日時: 2009年10月15日 21:44