「人魚姫」に続いて、ハンブルク・バレエ2009年公演「椿姫」に行ってきた。平日休みに神奈川県民ホール、終演後まっすぐ帰ったけどそれでも帰宅は11時近くて、当日感想を書く元気はとても出なかった。いったん書きそびれるとどんどん日にちがたってしまうもの、そろそろ1週間になるので舞台の細かい記憶は霧のようになってきた。ただし、強烈なラストの感動は、忘れたくても忘れられない。すごかった。
アルマン・デュヴァール:アレクサンドル・リアブコ
マルグリット・ゴーチェ:ジョエル・ブーローニュ
老紳士デュバール:カーステン・ユング
ナニーナ:ミヤナ・フラチャリッチ
伯爵:ヨロスラフ・イヴァネンコ
プリュダンス:レスリー・ヘイルマン
N伯爵:ヨハン・ステグリ
マノン:エレーヌ・ブシェ
デ・グリュー:ティアゴ・ソアレス
オランピア:カロリーナ・アギュエロ
ガストン:アルセン・メグラビアン
舞台美術・衣装がユルゲン・ローゼというのは事前に知らなくて、配役表を見て胸を躍らせてしまった。シュツットガルトが素晴らしかったから。今回は大道具的なものはあまりなくて、家具がいくつか、で部屋の情景を暗示し、あとは衣装で物語を展開させていく感じだった。プロローグのマルグリットの家の競売で出てくる紫のドレス。映像で見たことがあって素敵だなあと思っていたのだけど、ユルゲン・ローゼだったのね。社交界の華のマルグリットのイメージにぴったり。このドレスを着たマルグリットとアルマンの出会いで、ドラマは幕を開ける。
マルグリットのジョエル・ブーローニュは、正直言ってあまりいいなあと思えなかった。顔立ちが、ちょっときつい。姐さん顔。演技は上手いけど、足音が大きいのが気になった。アルマンのアレクサンドル・リアブコは、エトワール・ガラで見た時と同じ、そのまま。でもすっかりアルマンになり切っているのだな。1幕の鏡のPDD、あんな犬みたいな男はどうだ、と思っていたけど、リアブコの迷いのない一途さは清々しい。そりゃ世間の荒波を知っているマルグリット姐さんも、ぐらぐらっと来るなあと。ブーローニュとリアブコペアを見て思った。素敵だったのはマノンのエレーヌ・ブシェ。「人魚姫」の時感じたように、彼女は体のラインがとても美しいダンサーで、白塗りの舞台メイクはちょっと滑稽だったけど、劇中劇としてドラマチックな世界を魅せてくれた。デ・グリューのティアゴ・ソアレスは翌日アッツォーニと組んでアルマンを演じる予定になっていたけど、印象は薄かった。
第2幕、アルマンのデレデレぶりは手加減なし。薄幸そうなブーローニュもうれしそう。避暑地での白い衣装は太陽の眩しさを暗示していて、馬鹿騒ぎする社交界の面々はひたすら明るい。この甘さと明るさと、この後登場するアルマンパパの連れてくる厳しい現実の対比が、落差が、劇的でいいのだ。引導を渡しにやってきたアルマンパパに対し、はじめは気丈にふるまっていたマルグリットが、身を引く決心をしよよと泣き崩れ・・・。幸せなんて砂の城のようなもの、と一条ゆかりを思い出したりする私。マルグリットはアルマンの元を去り、再びパーティガールへ。この辺の展開は衣装の早替えでうまく表現されていた。ひとり呆然としていたアルマンだけど、他の男とベッドにいる彼女を見てすごい勢いで卒倒する。悲劇の幕開けだ。
「ノイマイヤーの世界」(DVD)にリアブコ演じる「ニジンスキー」の映像が入っている。彼は素晴らしいダンサーだ。マッチョ過ぎないしなやかな体、力強い筋肉、柔軟性、敏捷性、センス、リズム感。天才ダンサーを演じるのに遜色のない資質と技術を持っている。今回の舞台でもやたらリフトの多い振付けを軽々とこなしていたし、足音はしないし、素晴らしかった。その上、あの演技力!ノイマイヤーの振付けが巧いと言えばそれまでだけど、アルマンの感情のうねりがダイレクトに伝わってきた。舞踏会でマルグリットにお金を渡すシーンでの、怒りの爆発。一見あんまりな仕打ちだけど(だってマルグリットは実はアルマンを愛しているんだし)、あれは愛情の深さの逆説的な表現なのだ。リアブコの演技は迫真だった。これを受けるブーローニュも負けていない。傷つき、ボロボロになって、それでもアルマンへの思慕を捨てず一途に思い続ける。体は死病にむしばまれ、起きてペンを取ることもままならないのに。舞台の片隅では彼女の遺品となった日記を読むアルマン。舞台上のマルグリットの姿は彼の回想という設定なんだけど、二人の気持ちの時間を超えたシンクロがこちらに伝わってきて、めちゃくちゃ胸がかき乱された。二人の一挙一動が感動を盛り上げる。いつの間にかすっかりブーローニュに感情移入していた私。恐るべし、ノイマイヤーの魔術。彼は観客の心を自由自在に操ってしまう。
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| 20090224 |
