待望の、ハンブルク・バレエ2009年公演「人魚姫」に行ってきた。と言ってももう一週間たっているが。ノイマイヤー芸術監督就任35周年。私はパリ・オペラ座バレエの「シルヴィア」(ノイマイヤー版)をDVDで見てすっかり気に入ってしまったので、ハンブルク・バレエ自体は初見ながら期待値は大だった。エトワール・ガラで魅せてくれたシルヴィア・アッツォーニもいるし。バレエ好きブロガーさん達が続々とupしてくださる平日公演のレビューを読んで、ときめく胸を押さえつつ、NHKホールへ。
詩人:イヴァン・ウルバン
人魚姫/詩人の創造物:シルヴィア・アッツオーニ
エドヴァート/王子:カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女:エレーヌ・ブシェ
海の魔法使い:オットー・ブべニチェク
私好みの、「総合力の高い」舞台だった。オケは東京シティ・フィルだったけど、ヴァイオリン奏者のアントン・バラコフスキーとテルミン奏者のカロリーナ・エイクが加わって、とてもいい感じの演奏だった。舞台美術はシンプルで洗練されている。美しい照明も衣装も、全部ノイマイヤー。海底のシーンでは衣装自体が舞台装置になっているのが素晴らしい。「海」のダンサーたちが身体で海底世界を表現しているのだ。薄暗い妖しい世界はアネット・メサジュの「カジノ」を思い出させた。そして船上と海底の、頻繁な場面転換の巧みさに脱帽。人間世界は、あくまで明るいのよねー(代表:王子)。とにかく舞台全体が素晴らしいアート作品になっているのが、とても好み。しかもダンサー達が個性的でありつつエレガントで、生命力に溢れたダンスをするのだ。
ああ、アッツオーニ!とりわけ彼女が素晴らしかった。エトワール・ガラ2008で彼女のオフィーリアを見た時は、その表情の純粋な狂気に「うわ、憑依型ダンサー」とやや恐れをなしていたのだが、ま、単に女優型ダンサーなんですね。今回は、人魚姫になり切っていた。人魚姫は、詩人(=アンデルセン)の妄想という解釈になっているけど、とにかくあれは人間じゃない。異形のイキモノだ。子どもの頃この童話を読んだ時は人魚姫の哀しい運命に胸を切なくしたものだけど、この舞台では私はそういう感情移入はしなかった。彼女は人間ではないのだ。この日読んでいた川上弘美さんの「龍宮」が、ちょうど人にあらざる輩が出てくる不思議な短編集で(海馬もいた)、そういう者に対する好奇心と同じものを人魚姫にも抱いた。アッツオーニは目がキラキラしていてとても可愛い。地味なお顔の方だと思っていたんだけど、美人さんだ。白塗りで筋のあるヘンなメイクをしてるのに、彼女の大きな目が表情を生き生きとさせている。悪戯っぽい微笑みを浮かべて3人の「影」にリフトされて中空(海)を泳ぎ回る彼女は、人間離れしたエレガントさ。尻尾ではなくて足先が隠れる長〜い真っ青なパンツをまとっているのだが、リフトされる時も自分で立つ時も、引きずる裾を綺麗にコントロールしていていて、ちょっと新体操だと思った。自分の体のラインだけでなく、衣装のシルエットも計算しなくちゃならないもの。
王子が気に入ってしまって陸に上がった人魚姫は、得たばかりの脚の痛みで歩くこともままならない設定。衣装も肌色のレオタードと、装飾性は一切なし。車椅子に乗せられて王子の白いコートにくるまれて、元々小柄なアッツオーニは子供のよう。イノセントさが浮き上がってくる。でも、頭の中は王子への執着でいっぱいだから、必死で彼にまとわりつく。この辺で涙をそそられるのが通常の鑑賞者らしいのだけど、私は全くもって動じない王子の味方。ああいうのに同調する感性を持ってちゃ、国は治められません。健常な人は健常な人同士(ヘンリエッテ)で予定調和な未来を築いてください。カーステン・ユングはちょっとこましゃくれた顔立ちと立派な体躯を持った、美声年(と言っていいと思う)ダンサー。後日「椿姫」でアルマンの父親を演じているのを見た時はえ〜っと思ったけど、水着もゴルフクラブも軍服も似合う、ナイスガイだ。彼の明るさが、とても良かった。
王子はあっぱれ最後まで「僕知らない」を通し抜いたけど、ヘンリエッテはちょっと危なかった。アッツオーニが渡した貝殻に夢中になる王子に、不安な目を向けていた。ま、女性は敏感だから。幸い王子がヘンリエッテに貝殻を渡しちゃったから事なきを得たけど、あやかしの姫と三角関係に陥ったら最後、面倒なことになっていただろう。エレーヌ・ブシェは華のない顔立ちで「これが人魚姫のライバル?」と最初は思ったけど、長身・スレンダー、手足がびっくりするほど長くてしなやかで、いいダンサーだと思った。それに、衣装によって少女にも一人前の女性にも見えたので、彼女もある意味女優ダンサーなのかもしれない。
詩人は最初から最後までうじうじしていたなあ。人魚姫をかばっているように見えて、実はあれは彼の妄想で、彼女を苦しめている張本人は彼なのだ。と言うか自虐。上着と長いズボンで体のラインが見えなかったからダンサーとしての魅力は判定しがたいけど、イヴァン・ウルバン、彼もなかなかやるのではないかと思う。
魔法使いのオットー・ブべニチェクにはあまり惹かれなかった。むしろ私は「魔法の影」の3人に釘づけ。覆面で顔は見えなかったけど、カッコよかったなあ。イケメン!て感じだった。メガネの修道女は振付けがめちゃくちゃコミカル、印象的。あとは水兵さんが可愛かったくらいかな、端役で憶えているのは。ああ、ボブで揃えたブライドメイドの、ソロを踊った人は日本人だったのかな?
しかしすごいのはアッツオーニ。終幕の、王子に相手にされず傷ついてボロボロになった演技は非常に切なく、人魚姫に感情移入していなかった私をも「泣き」モードに突入させた。実際泣いたりはしなかったけど、胸が苦しかった。ダンサーの集中力と演技力、そしてもちろんノイマイヤーの巧みな心理描写にノックアウトされたということだ。これは本当に素晴らしいことで、カーテンコール総立ち、登場したノイマイヤーに嵐のような拍手が送られたのは当然だろう。私も彼らに対する感謝の気持ちいっぱいで、掌が痛くなるほど拍手して、時々「ありがと〜」と手を振ったりもしていた。
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| 20090218 |
そんなわけで、愛知公演の当日券が残っていると聞き「あの感動を再び!」と本日名古屋遠征を企てていたのだが、事情があって行けませんでした。地方公演の中で唯一行ける日だったんだけど。でもあの舞台の素晴らしさは胸に焼き付いている。いつもより長く感想を書いたけど、これは感じたことのごく一部だ。ノイマイヤーの素晴らしさをやっと知ることができて、良かった。
