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ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情

国立西洋美術館で開催中の「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展を観た(12/7マデ)。行ったのは先週の連休だから、他のエントリより早く書くべきだったのだけど、どうにも言葉にならなくて。その美しさに衝撃を受ける類いのアート。若くして作風が完成していて、しかも晩年になっても瑞々しさを失わない。ハンマースホイって天才じゃないの?

1. ある芸術家の誕生
2. 建築と風景
3. 肖像
4. 人のいる室内
5. 誰もいない室内
+6.同時代のデンマーク美術

という構成の展覧会。見終わった時めちゃくちゃ消耗していたのは、最初の《若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ》でショックを受けちゃって、それがずーっと続いたからだ。ハンマースホイがはじめて公の場で発表した作品で、アカデミーの選考に漏れてかえって物議を醸したという、いわくつき。確かに地味〜な色調だけど、暖色系モノトーンは静けさと親密さに溢れていて、とても美しい。そして、滲んだような彩色。全体にフィルターがかかっているようで、この女性が現実の存在に見えない。「ハンマースホイには雨が似合う」と聞いていたけど、なるほど〜と思った。雨でけぶったような質感だ。私の好きな現代作家の名和晃平さんは、PixCellというシリーズで、モノをビーズや偏光板で覆うことでそこに現存するものを映像として見せるというコンセプトを打ち出している。それらは理屈抜きでとても美しいのだけど、19世紀末のハンマースホイがすでに絵画で同じようなことを成し遂げてしまっているのだ、と感じた。まあアナはノーマルに描かれているのだから、飛躍し過ぎかもしれないけど。

《若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ》 20081021

第1章ですでに驚愕のオンパレード。肖像がいくつかあって、どれも背景がほとんどない。女性が坐っているとしても、椅子はごく一部しか描かれていなくて、なんとも曖昧な安定感。図録にあったように「焦点がずれた写真のような」風景画は、蜃気楼を間近で見ているような感じ。自分自身の視覚を疑ってしまう、惑わされる。でも悠々として穏やかで、好き。これら初期の作品を持っている人(もしくは美術館)が、とても羨ましい。

第2章で描かれいてる建築は、冷ややかなほど描線がまっすぐで、精密。滲む質感はそのままだけど、無人の街角にたたずむ建物は孤高の存在に見える。風景の中の、華奢で妖しいシルエットの木々は、光の受け方で表情を変える。貪欲に見入っても正体を捉えることのできない、超現実的な世界があった。

第3章の肖像は、みんな奇妙だ。なんでアナのように綺麗に描いてあげなかったのだろう。《ふたりの人物像(画家とその妻)、あるいは二重肖像画》とか《イーダ・ハンマースホイの肖像》とか。妻ってのは夫の目にはこういうふうに映るものなのかしらね。

さて第4章、「人のいる室内」はイーダばっかり!一体何人のイーダを見たのだ。ストランゲーゼ30番地の自宅で、ありとあらゆるスナップを撮って構図や光線の実験しているような感じ。時に鑑賞者に微妙な緊張を強いる奇妙な構図は、演劇的という捉え方もできるらしい。望むところ。ハンマースホイという演出家の無言劇を、じっくり見せて頂く。ここは作品数が多くて、終いにはちょっと混乱していた。なんで自宅内で、あんな多様なショットを作れるのだ・・・。

《室内、ストランゲーゼ30番地》 20081021

最後の第5章「誰もいない室内」は、一種完結してる世界。人物がいなくなったことで浄化されたと言うか。光や空気に意識の焦点を合わせやすい。お気に入りは《陽光習作》。光の降り注ぐ窓と、(取っ手のない!)扉が描かれているだけだけど、なんか清潔さを感じる。《廊下に面した室内、ストランゲーゼ30番地》はロマンチック。と言ってもこれも単に窓の画。部屋の窓と廊下の窓の桟が重なった面白さと、廊下を通して差し込む光のやわらかさが心地よい。画像がないのでこっちを載せる↓。

《白い扉、あるいは開いた扉》 20081021

ハンマースホイは巧いし、若い頃から一貫した作風と美意識を持ってブレない作品を創作してきた。なので自分の好みでスルーできる作品がなくて、全作真剣に見る価値がある。同じ家の中の風景を描いていても、捉えどころがない。体力尽きて後半は何も考えずに眺める快楽に身をまかせてしまった。負けた。

コメント (12)

奥さんの絵は病人か老婆のようで、あんまりでしたね。
後姿だけがまともなんて・・・
「人のいる室内」のコーナー、
同じタイプの絵だけであの広い空間を埋めている・・・
衝撃的でした。

病んだイーダをあえて好んで描いていたとしたら、画家の妻って悲しいなぁと思いました。
わたしは3巡したけど(先週を入れたら4巡)不思議と体力的にも精神的にも疲れない展覧会でした。
ハンマースホイの画風はもう職人として確立していたけれど、同じモチーフをあれだけ見せられても全然飽きが来なかったのはやはり職人芸なのでしょう。
平日閉館間際はガラガラだったのですが(しょうがないか)もうちょっと話題になって欲しいですね。

F :

こんばんわ!!
最近いちばん関心のある展覧会なのですが、二の足を踏んでいます。
いえ、行かれた皆さんが一様にヘヴィーなご感想を漏らされますので。
ogawamaさんのレポも興味深く拝見しました。
見ているだけで体力を削られる絵って・・・う~む。
美術に関してホントに大初心者なので、いきなり難しそうなのに
行ってよいものやら迷ってます。
背中を押してください!!(笑)


私の尊敬する方の感想です。
私にはほとんど内容が分からないのですが、お時間ありましたらご覧ください。

http://bantowblog.exblog.jp/8728287/

http://bantowblog.exblog.jp/8768197/


遊行七恵:

こんばんは
ハンマースホイは確かに消耗「させられる」感がありました。
わたしは白すぎる室内に苛立つ体質なので、眺めるうちにこれが自宅と言うのは嘘で、本当は解放病棟ではないかと疑り始めました。
でも、
>お気に入りは《陽光習作》。光の降り注ぐ窓と、(取っ手のない!)扉が描かれているだけだけど、なんか清潔さを感じる

そこにわたしはなんだか救われた様な気分になりましたよ。
ホント、清潔な感じがありました。


ところでコメントの件ですが、是正できました。
すみませんでした~~。
「え゛っ何がやろ~」と思い当たるフシを色々・・・
ときどきやらかしてしまうわたしです。

ogawama:

>一村雨さん
同じタイプの絵なのに、一つとして駄作がないってのがつらいところですよ。
うーん今度はこう来るか・・・なんて最初はいちいち反応してたのですが、だんだん感覚が麻痺してきました。
美味しいものを食べきれなかった時の口惜しさ。みたいな。

ogawama:

>さちえサマ
さすが、さちえちゃんはロンドン・パリでじっくり観て、免疫がついていたのねー。
オルセー展の1点は私もいいと思っていたけど、まさか画家人生を空白の部屋を描くことに費やしていた人とは。
確固とした美意識が素敵だと思いました。

ogawama:

>Fさん
あ、全然難しくないですよ〜、この展覧会。
主題は人のいない風景ばかりですから、描かれているものはいたってシンプル。
絵具は薄塗りで西洋絵画にありがちなもっさり感がなくて、色調はスタイリッシュです。
ぱっと見は非常に気持ちいいんです。
ただ、その魅力に引き込まれて深く入って行こうとすると、構図の仕掛けとかにやられて自分を見失ってしまう、、、油断はできない。

ハンマースホイは引き蘢りタイプだったみたいで、独自のレンズで世界を眺めていたようです。
Fさんほどの写真の腕前を持っていらしたら、彼の視線を理解できるかも。

ご紹介のブログ、すごく面白いので購読させて頂きます。
ほんとに、あんまり出来がいいから悲しくなるような展覧会で、見逃すのはもったいないですよ。

ogawama:

>遊行七恵さん
なんか、素直に賛美できない展覧会なんですよね。
衝撃を受けるほど感動したのに。
と言うか消化できなかった自分がくやしいので、再訪はリベンジになるでしょう。

コメント、入れられました!
スパムっぽいHNで申し訳ないです〜。

こんばんは。

そこらじゅうで「ハンマースホイ展良い!」と
吹聴しまくっているTakです。

絵描きがイタリアやパリに行って
その初めて目にする景色を全く
描くことなく影響されることない
そんな事って今まであったのでしょうか?

月に2回は行くように自分に言い聞かせ実行。
「フェルメール展」よりもトータルで多く
足を運んでしまいそう。

今年のベスト5入り間違いなしです。

ogawama:

>Takさん
やっと書けました〜(涙)。
Takさんが月に2度通いですか。
わかります。
見ても見ても頭の中に確固としたイメージが焼き付かない感じなんです。
しかしあれだけの作品数を見られるなんて、信じられないような幸せですよね。
今年はコローが一番かと思っていたけど・・・。

あべまつ:

こんにちは。
珍しく私も西洋美術館行ってきました。
不思議なミステリー系の
モヤがかかった静かな絵でしたね。
私は「シャイニング」だ!と思ったのでした。

ogawama:

>あべまつさん
「シャイニング」受けました〜。
古美術好きのあべまつさんの初々しい(失礼!)感想も拝見しました。
そうかハンマースホイはミステリー系なんですね。
謎を解きに、また行かないと!

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